「さぁ? お前が死んだって、俺にはなんも関係あらへんし」

 俺は彼のジャケットをつかんで立ち上がり、その深い夜空のような瞳を覗き込んで、必死に問いかけた。

「あなたはあいつらの正体とか、どうすればいなくなるのかとか、知っているんですか!? それなら教えてくださいっ!」

 男は眉間をひそめて俺を突き放し、不機嫌そうに言った。

「キャンキャン吠えるな、鬱陶(うっとう)しいなぁ。俺は今、仕事中や。そもそも先に言うことがあるんちゃうか? 礼儀のないガキやな」

 俺はむっとして言い返す。

「ガキって、多分年はそんなに変わらないでしょう。助けてもらったことについては、感謝してるけど」

 それに隣に並ぶと、身長だって俺の方がちょっとだけ高いし!と思ったが、こういう思考はガキっぽいかもしれない。

 彼はうんざりといった表情で、懐から名刺を取り出した。

「もしほんまに困っとるんやったら、ここに電話してこい」

 それからまた人を小バカにしたように、ふっと嫌味っぽく笑う。

「まぁ依頼するにしても、お前に払えるような金額ちゃうやろけど」

 そう言って男は俺を放置して、さっさと歩いていってしまった。
 突然起こった出来事に、俺は立ち尽くしてしまう。それからしばらくして、じわじわと怒りがわき上がってきた。
 なんか、すごく嫌なやつだった! ずっとからかってるような表情だったし!
 けれど顔だけは、現実味がないくらいに綺麗だった。

 俺はもやもやした気持ちで、渡された名刺に視線を落とす。
「榊原陰陽師事務所 代表 榊原朧(さかきばらおぼろ)? ……陰陽師って、あの陰陽師?」

 俺の知っている陰陽師は、映画や漫画の中だけの存在だ。
 お内裏(だいり)様のような服装で、黒くて細長い帽子を被っていて、手から術を出して化け物と戦うようなイメージしかなかった。

 現代に陰陽師が存在するなんて、どうにも胡散くさい。

 ……だけどさっき目の前で、お札みたいなのが鳥に変身するのを見てしまった以上、信じざるを得ない。まるで魔法のようだった。あれが陰陽師の術なのだろうか?
 俺はぶんぶんと首を横に振った。

「いや、でもあんな嫌なやつに、もう会いたくないし! 幽霊が出たって絶対連絡なんかするか!」

 そう決意し、とりあえず帰宅することにした。いろんなことがありすぎて、どっと疲れてしまった。

 帰宅してから、そういえばティッシュ配りのバイトを放り出してしまったと気づく。
 夜になってバイト先から電話がかかってきて、めちゃくちゃ怒られた。
 幽霊に追いかけられたと言っても当然信じてもらえず、そのままクビになってしまった。踏んだり蹴ったりだ。