暗めの銀髪は、染めているんだろうか。まるで銀糸のような、細く艶やかな髪だ。
 その人は俺の腕をぐいっと引いて、俺をふわりと立ち上がらせた。それから身体をぎゅっと抱き寄せる。

 ……あれ、硬い。
 その人の身体の質感が思いの外骨張っていて、そこで初めて男性なのだと知る。よく見ると、服装もスーツだし。

 彼の服からほのかに甘い香りがして、不覚にもドキリとした。
 何で抱きしめられているんだと動揺したが、周囲を見渡せば、まだ何体も幽霊がいることに気づく。

「うわああああああああ! ま、まだたくさんいるっ!」

 それからハッとして、祖父の霊の姿を探す。しかし、どうやら祖父はいなくなってしまったようだ。少しだけほっとした。もしさっきの女にされたように祖父にまで襲われたら、どうしていいのか分からない。

 男は「キリがないな」と低い声で呟き、懐から長方形の白い紙を取り出す。

「邪魂火滅 朱雀飛来炎(じゃこんひめつ すざくひらいえん)」

 呪文を唱えながらそれをピッと宙に飛ばすと、驚くことにさっきまでただの紙きれだったはずのそれが、炎を纏(まと)った尾の長い鳥に姿を変えた。

 燃え盛る鳥はぐるりと俺たちの周囲を一周し、俺につきまとっていた幽霊たちを、すべて焼き尽くした。その後鳥自身も、役目を終えたとばかりに燃え尽きる。

 嘘みたいな光景に膝をつき呆然としていると、美しい男性はキッと眉を吊り上げ、こちらを睨みつけて言った。

「いつまで抱きついてんねん、アホ」
「なっ……! そもそも抱きしめてきたのはそっちじゃないですか!」 
 
 そう抗議して、彼が幽霊を倒してくれたことを思い出し、おずおずと問いかける。

「あの幽霊、あなたが倒してくれたんですよね?」

 彼は無表情のままつまらなさそうに俺を見下ろした。
 そんな顔をしても整っているのが悔しい。

「そうや。せやけど根本的な原因を取り除かんと、また同じような目に……いや、もっとひどいことになるやろな」

 不安を煽るような言葉に、俺は狼狽える。

「もっとひどい目って、一体……」

 そう訊ねると男は俺の顎に手をかけてグイッと顔を寄せ、鼻先が触れそうな距離で嘲笑う。
 紫色の双眸(そうぼう)が、値踏みするように俺を見下ろしていた。