「そうか、爺ちゃん、よかった……」
俺はほっと息を吐いた。ずっと心配をかけてばかりだった。せめて天国で安らかに眠ってほしい。
朧は懐中時計に手を当て、優しい声音で呪文を紡ぐ。すると時計が金色の光を放った。
「朧、これ……」
「爺さんが授けた守護の術は、もう効力が消えかけとったからな。もう一回、俺が術を強化した。
これからは今までみたいに、いたずらに霊に追いかけられたりはせんやろ。ただ幽霊と波長が合ってもうたみたいやし、お前にあった霊感は残ってるから、強い霊がいる時、どうしても見えたりするんは続くやろけどな」
今まで俺はずっと、心のどこかで自分はここにいてはいけないのではないかと、不安を抱えていたように思う。
けれど、もう不安はない。
祖父が守ってくれた自分を、大切にして生きていこうと素直に思えた。
感極まった俺は、榊原のことを強く抱きしめた。
榊原は珍しく、少し面食らったような顔をしている。
「榊原、本当にありがとう! 俺、榊原に出会わなかったら、一生爺ちゃんのことを誤解したままだった。
最後に爺ちゃんの思いを知ることができて、よかった。本当によかった!」
榊原は冗談っぽい口調で言った。
「ま、俺は有能やからな。仕事の依頼はちゃんとするで」
俺は榊原の手を、ぎゅっと強く握った。
「何や」
「榊原、俺、頑張って働くから! 壺の弁償をしなきゃいけないのもあるけど、それだけじゃなくて……俺、感動したんだ。
誰かの心を救うことができる仕事って、すごいなって思ったんだ! 俺も榊原みたいになりたい! だから改めて、ここで働かせてほしい!」
そう宣言すると、榊原は堪えきれなくなったように、クスクスと笑った。
今まで嫌味っぽい顔で笑うのは何度も見たけれど、こんな風に素直に笑った顔は初めてだ。
「どうしたんだ?」
「いや、お前、ほんまコロコロとよく表情が変わるな。すぐに怒ったり、笑ったり、泣いたり」
俺はうぅ、と唸り声を上げた。