「爺ちゃんはずっと俺と鈴芽のことを考えていてくれたのに、俺、何も分かってなかった。この時計のことも、全然知らなかった。爺ちゃんが守ってくれていたから今までのうのうと生きてこられたのに、その思いの欠片も分からずに、自分一人で何でもできると思い込んでいた」
ずっと言えなかった言葉が、自然とこぼれ落ちる。
「ごめんなさい、爺ちゃん。代わりに俺が死ねばいいなんて、絶対に聞きたくない言葉だっただろうに。本当はずっと、謝りたかった。だけど、俺、ずっと、どうやって話していいか、分からなくて……」
祖父は、俺の頭をぽんぽんと撫でた。
どうして忘れていたんだろう。
子供の頃、爺ちゃんはこうやってよく俺の頭を撫でてくれた。俺はその手が、大好きだったのに。
『明良、私は言いたいことの半分も、お前に伝えることができなかった。ずっと窮屈(きゅうくつ)だっただろう。
すまなかった。もっと、明良と鈴芽のことが大切だと、伝えるべきだった。お前たちは、私の宝だった。
明良と鈴芽が側にいるだけで、私は幸福だった。そう、何度だって言わなければいけなかったのにな。けれどお前は私が思うよりもずっと、いい孫に育ってくれた』
俺はそんなことない、と頭を振る。
次から次へと涙が溢れて、唇から嗚咽(おえつ)が漏れた。
『明良、いろいろ背負わせてしまって、ごめんな。もう、苦しまなくていい。お前は何も悪くない。父さんと母さんが死んだことを、お前が気に病むことはないんだ』
祖父は俺の持っている懐中時計に優しく触れた。
『懐中時計に、守護の術をかけていた』
「守護の術?」
『あぁ。その時計がどうかお前を守ってくれるように、そう願ってな。これからも、つらいことがあるかもしれない。だけど、お前なら大丈夫だ。どうか鈴芽を頼んだぞ』
そう言って微笑むと、祖父の姿は光に包まれ、消えてしまった。