『だけど、もう少し優しくしてあげればいいのに』
それを聞いた祖父は、厳しい表情で頭を振る。
『私は恨まれているくらいでいいんだ。私がいなくなって、明良と鈴芽が清々したと思えるくらいでちょうどいい。無駄に悲しませることなどない』
祖父は、俺に嫌われていることを知っていたのだ。むしろ、そうなるように仕向けていた。いずれ来る別れの日に、俺たちきょうだいがこれ以上悲しまないように。
『明良はあの事件が起きる直前、犯人と話していたんだ』
俺はその言葉にハッとする。
祖父はやはり、俺が犯人と会話していたことを、知っていたんだ。
『じゃあ明良は、自分のせいであの事件が起こったと思っているかもしれませんね』
祖父は少し強い口調で言った。
『明良のせいなものか! 諸悪の根源は、犯人の男だ。それに、男がこの家を狙う原因を作ったのは、私なんだ。私が骨董品など最初から集めなければ、あの男に狙われることもなかった』
事件後、祖父は集めていた大切な骨董品を、すべて手放してしまった。
それは自責(じせき)の念からだったのか。
『それに明良には、霊を寄せつけてしまう力がある。どうかあの時計に託した術で、明良を守れるといいんだが』
『あなたはいつも、不器用なんですから』
少し心配そうに微笑んで、祖母は光と共に消えていった。
この記憶も、そろそろ終わりに近い。
時間が進み、俺は高校生になっていた。
この日のことも、よく覚えている。むしろ最後にまともに祖父と会話したのが、この時の記憶くらいしかない。
俺と祖父は居間で向かい合って座り、険悪な空気の中、言い争いをしていた。
『爺ちゃん、俺、高校を卒業したらこの家を出て働くよ』
『その話は、もう結論が出ているはずだろう』
『嫌だ! この家を出ていって、働いて、鈴芽と二人で暮らす』
祖父は相変わらず厳しく、俺は日々の生活に疲れ切っていた。早く独り立ちして、自由に暮らしたいと考えていたのだ。
『そんなこと、お前にできるわけないだろう。お前なんて、まだまだ子供じゃないか。一体どうやって生活するつもりだ!?』
『朝から晩までバイトすれば、どうにか二人で暮らす分だけの生活費は稼げるよ』
祖父は冷淡な視線を俺に向け、淡々と正論を吐く。
『もし病気にでもなって、働けなくなったらどうするつもりだ? お前の自分勝手に鈴芽も付き合わせる気か?』
『それは……』
俺はぎゅっと拳を握りしめる。
『話にならんな。最初から分かり切っていることだろう』
祖父の怒りのこもった声に、俺は一層反抗心を強くする。