その直後、警官が俺と鈴芽を保護し、連絡を受けた祖父が帰宅した。
警官から事情を聞いた祖父は、鈴芽を抱いてぼんやりと佇んでいる俺を見つけ、俺たちを抱きしめ、涙を流した。
『明良、鈴芽、すまない……! 怖かっただろう』
俺は泣くことも忘れ、虚(うつ)ろな瞳で祖父の姿を見つめていた。
謝り続ける祖父に何か言ってあげたかったけれど、言葉を忘れたように、一言も発することができなかった。
その光景を見ていた俺は堪えきれず、地面にうずくまって大声で叫んだ。
今なら。大人になった今なら、きっと父と母を助けられるのに。
いや、もしもう一度過去に戻れるとしたら、俺自身が無事ではすまなくても、例え死んでしまったとしても、絶対に父と母を助けよう。
何度も何度も、あの光景を夢に見て、そう誓ったのに。
――結局また、助けられなかった。
それ以降しばらく、俺の家はすべての幸せがなくなってしまったみたいに、悲しい時間が続いた。
俺は事件の日から、祖父と顔を合わせるのが怖くなった。
犯人はすぐ逮捕されたが、警察にどこまで話したのだろう。
あの男が家に来るきっかけを俺が作ったことを、祖父は知っているだろうか。
面と向かって訊ねる勇気はなかったが、きっと知っているに違いないと思った。
祖父は俺のことを、恨んでいるだろう。俺のせいで、父と母が死んだも同然だ。
そう考え、どんどん普通の会話すらできなくなった。
何も分からない小さな鈴芽だけは、無邪気に笑っていた。
両親がもう二度と帰ってこないことは理解していた。ただ、父と母が戻らないのなら、せめて犯人には刑務所に入って、罪を償(つぐな)ってほしいと願った。
しかし神様はどこまでも理不尽だった。犯人の男は、患っていた持病をこじらせ、結局裁判が終わる前に死んでしまった。
その後の捜査で犯人の男が長年勤めていた会社を突然解雇され、生活に困窮(こんきゅう)していたこと、それを家族に話せず消費者金融から多額の借金をして追いつめられていたこと、その時偶然祖父の存在を知り、骨董品を盗めば借金を返済して楽に生活できると考えたことなどを聞いた。
だが犯行にどんな理由があったとしても、到底納得することも許すこともできなかった。
犯人が死んでしまい、怒りをぶつける矛先すら失った俺たち家族には、やりきれなさだけが残った。