話を聞いてから、さらに一、二時間経っただろうか。さすがに眠くなってきて、俺はうとうとしてきた。
榊原の穏やかで低い声は、耳に心地よかった。全身に伝わってくる、人肌のぬくもりも妙に落ち着く。お経みたいな呪文を聞き続けていると、もはや子守歌にしか聞こえなくなってきた。
榊原の肩にもたれながら、俺はうつらうつらと眠りに落ちそうになった。最近、幽霊のことが気がかりで、よく眠れなかったし。
意識を失いそうになり、榊原の肩に頭を乗っけたのと同時に。
ふーっ、と耳に息を吹きかけられた。
「うひゃ!?」
その行動に驚いて、一気に眠気が吹き飛んだ。俺は自分の耳を押さえて、思わず後ずさる。
「なっ、何するんだよ!」
「お前、何一人で気持ちよお寝ようとしてんねん」
「いや、だって…………寝たらダメなのか?」
俺は少し反省した。俺が眠ってしまうことで術の妨げになるのなら、申し訳ないと思ったのだ。
「別にダメやないけど、俺がせっかく一生懸命お前のために術かけてやっとんのに、横でぐーすか寝られたら何か腹立つやん」
「そんな理由かよ……」
本当にこの男は、見た目の美しさと裏腹に、意地が悪い。
榊原は楽しげに微笑んだ。
「別にええけどなー、寝ても。その代わり、眠ってる間にもっとすごいことされても知らんで」
「もっとすごいことって何だよ!?」
「何期待してんねん」
「してないっ!」
榊原が訳の分からないことを言うから、すっかり目が冴えてしまった。
それからも何十分か呪文を続け、ずっと何かを探っていた榊原が、糸口を見つけたようにポツリと呟く。
「繋がったな」
「繋がった?」
そう言われた瞬間、俺と榊原の身体が光に包まれ、どこかに吸い込まれるような感覚に陥る。
ぎゅっと抱きしめられ、榊原の腕の力の強さを感じた。
珍しく余裕のない声で、榊原が忠告する。
「志波、俺から絶対に離れんな。離れたら、元の場所に戻ることができなくなるで」
「元の場所に戻るって……」
シールみたいに、俺の身体に描かれた文字がペリペリと剥がれて、光の中に吸い込まれていく。
「あっ、あの榊原、これ! 文字が!」
「大丈夫やから、離れんな!」
俺は深く頷いて、彼の背中にぎゅっとしがみついた。