話しかけると同時に、彼女はつんとした態度で会話を終了させようとする。
「何? あんまり話しかけないでって言ってるでしょ」
パッチリとした意思の強そうな瞳に、少し幼さを残したやわらかそうな頬。肩甲骨あたりまで伸びる長い髪は、二つに結ばれている。
前髪にはいつも、お気に入りのビーズのヘアピンをつけている。
お兄ちゃんお兄ちゃんと俺にまとわりついてきた年の離れた妹も、反抗期なのか何なのか、最近はつっけんどんで冷たい態度をとる。
鈴芽は小学六年生。難しいお年頃だ。
「あのさ」
「何? さっさと言って」
「その……、会社が倒産した」
「は!? 本気で言ってるの、それ!?」
鈴芽は立ち上がって俺の襟首をつかみ、ガクガクと揺さぶる。
「意味分かんないっ! どうして!? 私たち、天涯孤独のきょうだいが一文無しでこれからどうやって暮らしていくつもりなの!?」
「いやいや、もちろん新しい仕事を探すよ。あの、この家はとりあえず家賃がかからないし、少しだけど爺ちゃんの遺してくれたお金もあるし……鈴芽が心配することは何もないから」
鈴芽はものすごく怒った顔で何か言いたそうにしたが、「あっそう!」と叫んで自分の部屋へ閉じこもってしまった。
「はぁー、困ったなぁ」
俺は頭を抱えて、その場に座り込んだ。
今までの人生が、走馬燈のように駆け巡っていく。
志波明良(しばあきら)、享年二十二。
いや、まだ死んでないけど。
思えば不運続きの人生だった。
もともと俺と鈴芽は、父と母、それに祖父の五人でこの家に暮らしていた。
しかし俺が小学生の時、ある事件が起きて、父と母が亡くなった。鈴芽はその時まだ、生まれたばかりの赤ちゃんだった。
俺は小さな鈴芽を抱きしめて、ただただ震えて泣くことしかできなかった。それから俺と鈴芽は、祖父と三人で生活することになった。
両親の死後、祖父の態度は一変した。
祖父は炊事や洗濯といった家事のすべてを、子供の俺と鈴芽に押しつけたのだ。
家のことを完璧にこなすことを強要されつつ、勉強をおろそかにすることも許されなかった。