俺という奴隷(どれい)を手に入れた榊原は、妙に上機嫌になった。
「とりあえず、一緒に働くことになったわけやし、さくっと除霊してやるわ」
これからの自分の人生がどうなってしまうのか不安しかないが、とりあえずお祓(はら)いはしてもらおう。
俺たちは応接室から別屋に移ることにした。
長い廊下を歩き、階段で地下室に下りる。いくつも並んだ同じような部屋の一室の襖(ふすま)を開き、中に入る。どうやらここが除霊のための部屋らしい。
榊原は、いったん一人で部屋を出ていった。
榊原が再び現れた時、さっきまでとは異なり、白い着物姿だった。
俺は感心して溜め息を吐く。
「似合うな、その昔みたいな、映画とかの陰陽師がよく着てる服」
「狩衣(かりぎぬ)いうんや、覚えとけ。これもまぁ、結界の一種や」
下にはいている袴(はかま)は、指貫(さしぬき)というらしい。
銀髪なので日本人らしさはあまりないが、それでも榊原の人間離れした美しさを引き立てるように、彼によく似合っていた。
どうやら陰陽師として仕事をする時は、それ相応の準備が必要らしい。
この部屋の中にも、静謐(せいひつ)な空気が漂っている感じがする。
榊原は綺麗に微笑みながら言った。
「じゃあシバコロ、とりあえず風呂に入ってこい」
「ふ、風呂!? 何で!?」
「結界を張る時は、清浄(せいじょう)にせなアカンのや。シバコロ自身が身を清めるのも、一種の結界や」
「そ、そうなんだ」
それから俺は、風呂に案内され身体を熱心に洗った。風呂自体もまるで高級な旅館にあるような檜(ひのき)風呂で、とてもよい香りがした。こんな時でなければ、ゆっくり満喫できただろうに。何だか妙なことになってきた。
風呂から出ると、先ほどの部屋に戻る。
榊原は俺をじっと見つめると、ふむ、と腕を組んだ。
「じゃあ志波、服脱げ」
「えええええええ!? さっき着たばっかりなのに!」
動揺しすぎて訳の分からないことを口走ってしまう。
「さっさとせぇや。脱がんのなら、俺が脱がすで」
そう言った時には、榊原は俺のシャツに手をかけていた。
俺は足をバタバタさせて抵抗する。
「やめて! ちょっ、あの、自分でやるっ!」
「分かった分かった。じゃあ、服を脱いだらそこに正座しぃや」