「割ったけど、待ってください、無理です! もちろん、踏み倒すつもりはないです。けど、さすがにすぐには払えない。
そうでなくても、会社をクビになったばかりなんだ!」

 てっきり怒るかと思ったが、それを聞くと、榊原は嬉しそうに俺の肩を叩く。

「なんや、シバコロ君そんな大変なことになってたんか。ほんだら早よ言うてくれたらええのに、水くさいなぁ、俺とシバコロ君の仲やないか」

 仲って、この前会ったばっかりじゃん……。

「お前にええ仕事、紹介したろか?」
「本当!?」
「ほんまほんま。金返すあてがないと大変やろ?」
「それはそのとおりなんだけど……」
「俺のところで働いたらええやん」

 脳が思考する前に、即答していた。

「断る」

 賢明な判断だと思う。自分で自分を褒めてあげたい。
 その言葉を聞いた榊原から、笑みが消える。

「何でやねん。お前わりと霊感鋭いみたいやし、まぁ取り憑(つ)かれるだけで除霊とかはできんみたいやけど、ええやん。
打たれ強そうやし。俺のところで働けるなんて、光栄やろ」

「嫌だ、そんな適当な理由で雇われるのは嫌だ!」
「へぇ。ならいい不動産屋紹介したろか?」
「いや、家は売らないけど!? そもそもあそこを売ってしまうと住む場所がなくなるっ!」
「ダンボールって、重ねたら意外と丈夫やで?」

「人間としての尊厳をくれっ! 妹もいるんだ!」
「なら、腎臓って二つあるって知っとるか? 人体って、一個で十分やけど念のために二個ある器官がいっぱいあるんやで」

「腎臓も売らないっ! どの内臓も全部俺のものだ!」

 そう叫ぶと、榊原は面倒くさそうに溜め息を吐いた。

「分かった、しゃーないなぁ。じゃあとりあえず、その時計から売ろか」

 一瞬何を言っているのか理解できなかったが、父の懐中時計のことだと分かり、ぶんぶんと頭を振って断る。

「あんたには人間の血が流れてないのか!? これは俺の父が、俺のために遺してくれた、思い出の時計なんだ!」

「言うても、ただの時計やん。思い出はシバコロ君の胸の中にぎょうさん詰まってるやろ。さ、換金しよか」
「鬼! 悪魔! 人でなし!」

「じゃあ、どうするんや?」