「お前から、やつらを引き寄せる力を感じる」

 彼の手が俺の肌に触れるたび、胸がバクバクと鼓動する。

「え、俺が……? まさか」
「気づいてなかったんか? もともと、潜在的な波長はお前の中に眠ってたんかもしれへん。その時計は、きっかけの一つにすぎん」

 榊原は俺から手を離し、再び時計を眺める。

「とにかく、時計についた霊が相当強い思いを持って、影響を及ぼしとるんは間違いないわ。このまま放置すると……、アカンことになるで」

「ほっておいたら、どうなるんですか?」

 榊原はきっぱりと言い切った。

「最悪、死ぬ」
「死ぬ!? あ、あれ、冗談じゃなかったんだ!」

 俺は榊原に助けてもらった時、もっとひどいことになると言われたことを思い出した。

「あぁ。おそらくこの時計が呼び水となって、次から次へと周囲の悪霊を引き寄せとるみたいやからな。放置すればおそらく数日で、志波の魂は悪しきものに囚われるやろ。ご愁傷さまやな」
「嫌だっ!」

 俺は思わずその場に立ち上がって叫ぶ。
 まさかそこまで重症だとは思っていなかった。死ぬと言う言葉を聞いて、一気に危機感が増す。

 死にたくない! まだ二十代なのに! 鈴芽だっているのに、今死ぬわけにはいかない!
 動揺のあまり、よろよろと後ずさりした、瞬間。

 足元にあった大きな何かを、ゴロンと思いきり蹴っ飛ばした。

「あ」

 丸くて大きな何か。それは、立派な飾り壺だった。
 壺は漫画のようにコロコロと畳の上を転がっていって、縁側から踏み石に向かって落ち、ガシャンと音を立てて、真ん中から綺麗に真っ二つに割れた。

「どうしてこんな割れやすい場所に壺が……」

 目が点になった。
 あの壺、最初からこんなに俺の近くにあったか?
 そもそも立ち上がったらすぐに割れる位置にあるなんて、何か作為的なものを感じる。

 とはいえ高そうな壺を割ってしまったことは、紛れもない事実だ。榊原に謝罪しなければいけない。
 きっとめちゃくちゃ怒られるんだろうな。
 そう考えて、彼の方に振り返り。

 想像以上に大変なことをしてしまったんだと気づく。
 ――榊原は、薄く微笑んでいた。

 やばい、どう見ても怒ってる。これ、多分本気で怒ってる顔だ。
 おそらく榊原は、本当に怒っている時は逆に表情を隠すために笑う性質なのだろう。

「うわー、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 頼むから笑わないで! その顔めっちゃ怖いから!」

 榊原はその壺に歩み寄り、大きな溜め息を吐く。

「アカン、完全に割れてもうてるわ。シバコロ、どう責任とんねん」
「シバコロって……え、もしかして、俺のこと?」
「当たり前やろ。お前以外にここに誰がおるっちゅうねん!」

 俺はおずおずと問いかけた。