セラミックの激うま恐竜レシピ


 ちびステゴサウルスがうろついていた事から、肉食恐竜の饗宴は大方収まったのかもしれない。

「ちょっと外の様子を見てきます」

 セラミックは、気まずい雰囲気から逃れるように松上を残して洞窟外の偵察に向かった。
 曇っていた空は嘘のように晴れ渡り、恵みの雨は古代のシダ植物群を生き生きと蘇らせたのだ。所々に水溜まりが残る崖下に、土砂に半分埋まったアロサウルスの姿が確認できた。
 恐る恐る銃を構えながら近付くと、2~3匹の1メートルにも満たない小型肉食恐竜が、ここぞとばかりに巨大な死骸の上に乗って肉を啄んでいるのが見えた。
 背後にただならぬ気配を感じる。セラミックは緊張して、振り向きざまに銃口を定めた。

「夜行性のジュラヴェナトルがまだ活動してやがる」

「ひゃあ!」

 服を着た松上が、いつの間にか背後に陣取り、食い荒らされたアロサウルスの上半身を口惜しそうに眺めていた。

「もう、驚かせないでくださいよ! 一言声を掛けたらどうなんです~」

「珍しい獣脚類だからな。我々に気付いて逃げ出す前に観察しておきたいのだ。カラスみたいな羽毛恐竜だなぁ」

「いいんですか? 大事なアロサウルスが、骨だけになっちゃいますよ」

「埋まっている下半身は無傷だよ。でも今日は雨も止んだし、臭いに釣られた大型の肉食恐竜が森を抜けてやってくるかもな」

 残された銃弾は僅かだ。昨日のアロサウルス群に向けた3点バーストによる無駄な発砲を、今更ながらに後悔した。その時、顔を上げたセラミックは、朝日に反射する不自然な金属光沢を目にして、松上の服を引っ張る。

「ほら! 枝に引っ掛かっている、あれを見てくださいよ、松上さん!」

「ひょっとしてあれは……でかしたぞ! セラミック」

 2人はジュラ紀に存在する事は、あり得ない機械製品……ドローンの無線操縦装置に付いているベルトをたぐり寄せ、急いでコントローラーを回収した。

「やったぞ、奇跡的に土砂に埋まらず、下まで落ちてきたんだ」

 祈るような気持ちで電源を入れる……落下の衝撃と、雨に濡れたにも関わらず、機能は正常だった。

「壊れていないようだぞ。さすが日本製! そうだ、俺のVRゴーグルはどこだ?」

 セラミックは、松上の首に掛かったままだったVRゴーグルを洞窟まで取りに戻った。

「おおっ! こっちも大丈夫だ。ドローンのバッテリーもまだ生きているかも」

 松上はコントロールを失い、森のどこかに墜落したままであろうドローンの状態を確認する。するとドローンのカメラからの映像が、VRゴーグルまで送信されてきた。試しにプロペラを回すと、何かに絡まっているようだが、機体が僅かに動いた。無線操縦可能なギリギリの距離のようである。

「セラミック! 我々はまだ、運に見放されていないようだ!」

 そう叫んだ瞬間、鬱蒼とした森の中から中型の肉食恐竜が奇声を上げて姿を現した。それを見た黒いジュラヴェナトルは一斉に食事を止めて飛び上がる。信じられないほどのスピード。鳥のような、すばしっこさだ。

「きゃ――っ! またアロサウルス!?」

「いや、たぶんトルヴォサウルスの子供だな。よく似ているが、羽毛の色がまるで違うじゃないか」

「よく落ち着いていられますね」

 セラミックは、トルヴォサウルスが豆恐竜を威嚇している内に、松上と洞窟まで走って隠れた。

「はあ、はあ……生きた心地がしません」

「なあに、まだ2日目じゃないか。今日ぐらいに救援隊が駆け付けてくれるはずだ」

「松上さんは、随分と楽観主義者なんですね。でも、そういうのは嫌いじゃないです」

「そうさ、生き残るための秘訣かな。いや、熱があるから頭がボーッとしているだけなのかもしれない」

 そう言いながら松上は、どこから拾ってきたのか、大きな恐竜の卵を2個ポケットから取り出すと、セラミックに見せた。

「また火を起こして朝食にしよう。ランチョンミート缶が残っているだろう? 調味料がないから缶詰の塩分を利用するのだ」

 セラミックは無言で頷くと、くしゃっと精一杯の笑顔を彼に捧げたのだ。

 洞窟に戻ったセラミックは、早速焚き火を始めて湯を沸かし、松上に貰った恐竜の卵を2個茹でた。
 そして大きな茹で卵を作ると固い殻を剥き、サバイバルナイフで縦に半分に切ったのだ。

「恐竜の卵とランチョンミート缶で、何を作るつもりなんだ?」

 まさかこの場で料理するとは思わなかった松上が、セラミックの手際いい作業を不思議そうに眺める。

「えへへ……セラミック風デビルドエッグですよ!」

 セラミックは固茹で卵から黄身だけをくり抜くと、シエラカップの中でランチョンミートと一緒に潰して和えた。そして味を付けた黄身を丁寧に元の白身に戻して盛り付けたのだ。

「さすが恐竜狩猟調理師を目指しているだけあって、料理のアイデアがすごいな。ちょっと俺には無理だ」

「いや、それほどでも~」

 セラミックが謙遜していると、シンプルな卵料理を口にした松上から意外な言葉が発せられた。

「セラミック、君の恐竜料理は本当に美味いな……」

 松上のしみじみとした言葉に、セラミックは一瞬……固まった。大きな茹で卵のように。
 これこそ、セラミックが今まで願って止まなかった、欲しがっていた台詞なのでは?
 ――松上に心から言わせたかった言葉がついに出た。
 セラミックが作った料理で、とうとう松上に美味いと言わせたのだ。

「黄身の料理ですか? それとも君の料理ですか?」

 プルプル震えながらセラミックは、意味不明な質問を真顔で聞き返してしまった。

「何言ってんだ、セラミックが作った茹で卵はイイねと言っただけだ。こんな状況で腹が減ってりゃ、何を食べても誰でも美味しく感じるはずさ」

 少し戸惑い気味の松上は、ひねくれた言葉に置き換えてきた。それでも嬉しかったセラミックはデビルドエッグを持ったまま、松上と背中合わせになって体重をぐいっと掛けた。

「や、やめろよ! せっかくの卵を落としちまう!」



 それからはまた、ただ静かな時間だけが過ぎてゆき、セラミックと松上は焚き火の炎を見ながら、とりとめのない会話をした。

「原始人の生活ってこんなだったのかしら」

「そうだな、我々の先祖は外敵の肉食獣に怯えながら穴居生活していたはずだぜ」

「もし助けが来なかったら、私達このままジュラ紀でサバイバル生活しながら生きていくのかな」

「馬鹿言え、すぐ救援隊がやってくるさ。心配しなくても大丈夫だよ」

 大きな瞳に炎を映しながらセラミックは夢想する。
 太古の昔に取り残された2人は、アダムとイブになりました。
 誰からも邪魔されないこの地でエデンの園を築き上げました……。



「……さあ、かわいい娘達。パパが夕食を仕留めて帰ってきたわよ!」

「わ~い!」

「ほら、今日の獲物はキリンのように首が長い竜脚類、ディプロドクスの尻尾だよ! 残念ながら本体の方は逃がしちまった! ごめんよぉ」

「もう、何やってんのよ!」

「ママ、おっぱいがはみ出しているでちゅ!」

「いやぁ! ジュラ紀はブラが売ってないから困るわ~」

「ブラどころかパンツも売ってないからノーパン生活だぜ」

「そんな事より、この子達の学校教育はどうするのよ!」

「俺が読み書きから面倒見てやるよ。こう見えても非常勤講師として、大学で講義していた経験もあるんだぜ」

「パパ、おヒゲが長いでちゅ」

「ああ、髪の毛もボサボサだな。コンタクトもなくしちまったけど、生きていく上では特に問題ないな」

「はぁ~、ケータイもテレビもなしか……。電気はいいとして私が心配なのは、怪我したり病気になった時よ。病院も薬もないのよ」

「1億年前の世界だけど、自然に即して生きる事……これこそが本来あるべき生物のスタイルなのかもしれない。寿命が短くても、ある意味これほど幸せな生き方はない。セラミック、俺より早く死ぬんじゃないぞ」

「あなた……恐竜に襲われるのだけはイヤだわ」

「俺達は奴らより1億年以上も進化しているんだぜ。生物としての完成度が違うよ。当然、頭脳もケタ違いだ。返り討ちにしてやるまでさ!」

 その時、原始生活を送る4人家族に不幸な天災の兆しが訪れた。この時代の地球は、まだまだ火山活動も活発で、大地を揺るがすような地震は頻繁に起こり、恐竜を始めとする生物群をしばしば恐怖のどん底に突き落としたのである。

「きゃあああ! また地震? パパ、今度のは大きいわよ」

「ああ、洞窟が崩れちまう! セラミック、急いでニコラとテスラを連れて外に逃げるんだ」

「わああ~ん! 怖いよママ~!」

「大丈夫よ! ママが付いてるから! さあ、行きましょう」

「うげっ! 洞窟の奥から火山性のガスが噴出してきやがった。ここはもうダメだな」

「ええ~! 私達の思い出が詰まった初めてのマイホームが……」

「また不動産屋に行けばいいだろ! おいおい、テスラがまだ寝ているぞ」

「双子なのに随分と性格が違うわね」

「ママ、おしっこもらしたでちゅ」

「おい! 見てみろ、向こうの成層火山(コニーデ)……ジュラ富士が噴火してるぞ!」

「わあぁ! 怖い~。でも噴き出すマグマが、夕焼けよりも綺麗……」

「ああ~、パパが作ったホネがこわれたでちゅ」

「くそ! 苦労して組み上げたアロサウルスの骨格標本が~、俺の私設恐竜博物館の夢が~」

「ジュラ紀にヒトは4人しかいないのに、あんまし意味ないわよ!」

「とにかく命あっての物種だ。さあ、みんなで逃げろ」

 非常事態において肉食恐竜と草食恐竜は分け隔てなく、一糸乱れぬ隊列を組むかのごとく群れを成し、どこかに向かって避難していた。野生の本能によるものか、危機に対する嗅覚に優れるのか、人類よりも迅速に行動し、統率も取れているような気がしてならない。
 全長20メートルクラスの竜脚類、アパトサウルスの群れが移動すると大迫力で、まるで背の高い貨物列車が線路を滑っていくよう。地面は足跡で掘り返され、大木さえも薙ぎ倒しながら水辺まで向かっている。
 
 原始家族も住み慣れたエデンの園を後にすると、子供2人をそれぞれに背負って寄り添いながら大河を目指した。水さえあれば何とか数日は生き長らえるはずだ。
 
 ミニサイズの肉食恐竜が10頭ほど、夫婦の足元をチョロチョロと縫うように走り去ってゆく。コンプソグナトゥスと呼ばれる、飛べない鳥みたいな奴らだ。
 空を見上げれば、まだ珍しい被子植物の梢から始祖鳥(アーケオプテリクス)の集団が、甲高い鳴き声を上げつつ七色の派手な羽毛を翻す。

「アダム、もうダメかもしれないわ」

「誰の事なんだ、アダムって? 俺の名前はジュラ紀でも松上晴人だ! それに、最後まで諦めるな! 地震と火山の噴火なんて日本に住んでりゃ、珍しくも何ともないだろう!」

「ちょっと、危ない! アパトサウルスに踏まれないように気を付けて!」

「馬鹿デカいあいつらも、逃げるのに必死と見える。どうやら地面は、あまり気にしてないようだな」

「パパ~! 前、前! やばいでちゅ!」

「うわあぁぁ! しまった、地割れに落っこちる!」

「きゃあぁぁ! 何なの、この映画のようなベタな展開は?」

 火山活動に伴う巨大地震により発生した断層は底知れず、地獄にまで届くようなスケールである。暗黒の口を開けたまま、数多くの生きとし生ける物を飲み込んでも、満ち足りる事はなさそうだった。

「セラミック……俺の事はいいから、この子を……(ニコラ)を頼んだぞ……!」

「そんな! あなたこそ諦めないで!」

 地割れに落ちかけている父親が、双子の片割れを何とか母親に託した時、非情にも木の根を掴んでいた左腕が力尽きてしまったのだ。
 地上に残された家族の悲痛な叫び声も、不気味な闇に吸い込まれてゆくだけで、愛する人の元には届きそうになかったのである。
 


 ……おい、セラミック……。
 ……起きろよ。いつまでそうやって寝てるんだ?
 
「おい、セラミック! 起きてくれ!」

「う~ん……?」

 セラミックは誰かに揺り動かされて、再び眠りから目覚めた。くすんだ顔を起こすと、目の前にある焚き火の炎がパチパチと爆ぜながら、優しい光と暖かみを供与し続けている。

「ん? ……どうしたんだ? 泣いているのか?」

 松上晴人が、心配そうにセラミックの顔を覗き込んでくる。彼は深夜まで寝ずの番をしてくれたセラミックの事を気遣い、長時間ぐっすりと眠らせてくれたのだ。
 思わず耳まで真っ赤になり、両手と毛布で顔を隠した。

「ごめんよ、セラミック。もう家に帰りたいのか……。そうだよな、家族も心配しているはずだし。……本当にすまない。俺のせいでこんな事になっちまって……」

「…………! 違うの! 悪い夢のせい」

 思わず声が出た。そしてセラミックは見た。やつれ気味に戸惑う松上晴人の横顔を。申し訳なさそうに、目も合わせてはくれない。
 彼も負傷し、極限状態の中で相当に頑張っているはずだ。なのに泣き言も一つ漏らさず、気丈に振る舞っている。その態度を目の当たりにして、セラミックは複雑な感情が渦巻き、何だか更に涙が溢れ出してくるのだ。

「さあ、もう泣かないで聞いてくれ」

「うん……」

「実は外部から微かに聞こえてきたんだ。俺達を呼ぶ声が、崖の上の方から確かに聞こえた」

「!! ……ひょっとして救援隊?」

「そうかもしれない。いや、きっとそうだ!」

 松上は手短に説明した。まだ動くドローンを飛ばして、2人がまだ生きている事を救援隊に知らせる手筈を。更にどこで救助を待っているのか、崖下までドローンを使って誘導すると言う。

「セラミック、君の力がどうしても必要なんだ」

「ええ、何でも言って」

「電波が届く外部にて、ドローンをリアルタイムで無線操縦する訳だが……」

「VRゴーグルを通して操縦している間は、無防備になって周囲の状況が全く分からなくなるのね!」

「……そうだ。外にはまだ凶暴なトルヴォサウルスがウロウロしているはずだから、セラミック! コントロール中の俺を守ってくれ」

「分かったわ!」

 松上とセラミックは向き合うと、笑顔で握手を交わした。言葉にはできなかったが、無事に2人で現代に帰還するという固い意思を伝えたのだ。
 涙が乾いた目には迷いなどなかった。セラミックは立ち上がると、89式小銃のコッキングレバーを引いて初弾を装填、セレクターの安全位置を確認した。

「我々の生存が絶望視され捜索打ち切りになると、グッと生き残る確率が低くなってしまう。何としても今、俺達が崖下で救助を待っている事を知らせるんだ」

「ええ、もう食料も乏しいし、現代に戻ってお風呂にも入りたいわ」

「ああ、温泉にでも浸かってゆっくりビールが飲みたいな。セラミック、その時は背中でも流してくれないかな?」

「いいですよ……って言う訳ないじゃないですか!」

 笑うセラミックの脳裏には、もう少し松上と2人でこの空気を味わっていたいとチラリと過ぎる物があったが、内緒にしておこう。傷口の化膿が始まったのか、彼の包帯を取り替えた時、臭ってきた事実が心に重くのし掛かる。


 焚き火を揉み消して荷物を纏める頃、セラミックは匍匐前進しながら外部の様子を伺った。
 土砂崩れの現場は、バラバラになったアロサウルスの巨体が転がり、相変わらずトルヴォサウルスの若い個体が骨をむしゃぶっている。首筋にフサフサとした羽毛が密生しており、ライオンの鬣を連想させる姿だ。
 松上も息を殺して静かに洞窟外に出ると、電波送受信状況を確認しながらドローンの無線操縦にベストな位置を探り始めた。

 松上晴人が言う通り、確かに崖上から人の声が聞こえてくるような気がする。2人は思わず大声を張り上げて助けを呼びたくなったが、トルヴォサウルスにすぐ見付かってしまうだろう。
 銃声で知らせる方法もあるが、何頭いるか分からない肉食恐竜をなるべく刺激したくない。残り少ない弾薬を使って闇雲に発砲しても、救援隊が本当に到着しているかどうかの保証はないのだ。

「よし、準備は整った。ドローンを今から飛ばすから、ガードを頼む、セラミック!」

「……OK! がんばって、松上さん!」

 松上は、シダやソテツの葉っぱを全身に巻き付けて偽装した。木に寄りかかりながら、ドローン搭載の小型軽量カメラから逐次送信されてくる映像をVRゴーグルで見ている。未だに位置は不明のままだ。
 ここにきて、不時着したドローンが離陸できない。木の枝や葉っぱがプロペラに絡まっているのかもしれない。もし4つのプロペラの内、1枚でも衝撃で折れていたら、バランスを崩してまともに飛び立たないだろう。

「お願いします! 飛んでください!」

 松上の神頼みにも似た言葉は、自然とコントローラーを操作する指を力ませる。
 絡み付くツル植物が犬のリードのようにドローンを引っ張り、最後まで上空への解放を拒む。
 モーターが限界まで唸り、4つあるローターの回転がMAX状態となる。
 振り子のごとく宙に揺れる虚しい映像が送られてくる中、このままでは、あっと言う間にバッテリーが上がってしまうだろう。

『……飛べ~!』

 思わずセラミックと松上が抱く心の声がシンクロし、爆発したように地表を伝わった。
 トルヴォサウルスが死肉を食らうのを中断し、振り向いた瞬間……ドローンが大空を舞ったのは偶然なのだろうか。
 
 好奇心旺盛な若い恐竜は、牙の隙間から臭い息を発しながら松上の方へと一直線に移動を始めた。

「それ以上は近寄らないで……松上さんには牙一本、触れさせない!」

 最終防衛ラインを突破すると同時に、窪みに隠れていたセラミックの89式小銃が火を噴いた。数十メートル先のトルヴォサウルスは、弾が貫通するとライオンのような鬣が鮮血に染まり、七転八倒してもがいた。
 もはや、なりふり構っていられなかった。希少種だの子供だの躊躇していては、あっと言う間に捕食されてしまうだろう。ここは完全なる弱肉強食の世界、中生代ジュラ紀の真っ只中なのだ。
 
 生き残りを掛けた2人は、妙に鮮明となった頭の中で思考する。
 人はいつから他の生物に対して上から目線となったのか……そんなの驕り高ぶりだ。
 数が少なくなった野生動物の保護・育成なんて罪滅ぼしのつもりだろうか。
 恐竜時代の圧倒的な生命力の前には、人類の英知も霞んでしまう。私達も、ここでは何と矮小な存在でしかないのだろうか……。



 白いドローンは曇りがちな空を滑らかに上昇し、徐々に高度を下げながら崖崩れの現場まで安定した飛行を見せた。崖上には救援隊と行動を共にしていた吉田真美が周囲を見回している。画面を通して遠距離から、不安げな中山健一の姿も捉えられた。

「……今、銃声がしなかった? 健一君」

「したした! 確かに聞こえたわよ! ほら! 1発だけじゃないわよ! ねえったら! 皆聞いて!」

 銃声が何発もこだまする中、ポニーテールの中山健一は、上空をホバリングする草まみれドローンのカメラと視線が合った。

「きゃあああああ! 彼は生きているわよ! 間違いないわ、早く助けに行かないと! 救援隊! 何してるの! ウチのリーダー……松上とセラミックを一刻も早く救助するのよ! 急いでよ、もう~~!!」


「セラミック! 真美さんと健一君は無事だぞ! 救援隊にも俺達が生きている事が伝わったはずだ!」

 崖上にドローンを着地させた松上は、VRゴーグルを外してセラミックの元に急いだ。

「おおっ! ついにやったな、セラミック! 恐竜ハンティングに初めて成功したじゃないか! おまけに誰からもサポートを受けずに、たった1人で倒したのか……。しかも初戦果が肉食恐竜だなんて、こいつは凄いぞ! 成体じゃないとはいえ、獰猛なトルヴォサウルスを狩るとはね……。もし初心者だったら、真美さんや健一君、いやいや俺にだって無理かなと思う。本当におめでとう、今日から君は……」

「はい……」

 松上からこの上ない賞賛の言葉を貰っても、セラミックは複雑な表情のままだった。無理に口元を歪めて笑顔を作るのが精一杯。3発もの銃弾を至近距離から食らい、血まみれで息絶えたトルヴォサウルスの最後に茫然自失となり、視線が釘付けになると同時に視点が宙を彷徨った。

「……しっかりしろ、君は恐竜ハンターなんだろ」

「松上さん、私、私……!」

 松上はセラミックから89式小銃を奪うように受け取ると、代わりにドローンのコントローラーを渡し、VRゴーグルをセラミックの頭から被した。

「うわ!? 何ですか急に」

「悪いがドローンの操縦を代わってくれ。君ならレクチャーしなくても、きっとできる。大丈夫だ、飛ばせるよ、たぶんね!」

「ちょっと無理です。感覚が……掴めません。本当に自分の周囲で何が起こっているのか、全く分からなくなりますね」

「いいからドローンのバッテリーが続く限り、救援隊を崖下にまで案内してやってくれ。落とすんじゃないぞ」

 弾倉を銃から外すと、松上は残弾を慎重にカウントした。残り8発である事を確認すると、軽く奥歯を噛み締めた。
 肩の傷口が疼き、腕の感覚も消失ぎみ。まともに銃が構えられない自分のコンディションを瞬時に悟ったのだ。若干、意識が朦朧として、立っているのがやっとな状態である。

「真美さんが、ドローンのカメラ越しに何か伝えてきますよ! 紙に書かれた文字にはピントが合いにくいなぁ。え~と、『通信機を・ドローンに・しばりつけるから・回収しろ』だって……」

 セラミックが独り言のような報告をしている間、ついに松上はフラついて片膝を着いてしまった。しかしながらVRゴーグルを装着し、集中している彼女には当然その事は分からない。

「――逃げろ、セラミック」

「え? 何言ってるんですか? 聞こえませんよ、松上さん」

「早く洞窟まで逃げろってんだ! お客様がまた来たぜ」

 ゴーグルを首に掛けると、ライオンの鬣をした恐竜が4、5頭連れだって鬱蒼とした森から姿を現した。臭いに敏感な奴らは、キョロキョロとしながら白い瞬膜を水平方向に動かし、盛んに瞬きを繰り返している。

「ドローンはもういいから、先に逃げろ」

「松上さん!」

「すまないな、セラミック。もう武器は棒の先に括り付けたナイフしかないのだ。これでも、ないよりは幾分かマシだろう。さあ、お願いだから行ってくれ」

 あくまで冷静な松上は、先頭のトルヴォサウルスに向かって発砲した。警告のつもりだったが、手元が震えて胴体をかすめただけだった。

「そして隠れたら、残り火を使って、もう一度火を起こすんだ!」

 セラミックは渡された短いナイフ槍の柄を握ると、首肯する代わりに松上の後ろからピッタリと背中合わせとなり、立つのを支えた。

「おいおい、俺の言う事を聞いてくれよ……」

 彼は苦笑すると、もう何も言わずに黙ってしまった。
 1頭が仲間の死体を貪る間、残りの肉食恐竜が見慣れぬ獲物に向かって早足で接近してくる。

「来るな馬鹿恐竜! 逆に食っちまうぞ!」

 猫の鳴き声に似た音を発しながら、群れは互いにコミュニケーションを図っているようだ。連携が上手にできているという事は、高度な頭脳を持つ証でもある。
 松上は息を止めて、最も大きな体躯をもつ個体に狙いを定め、慎重に引き金を引いた。
 顎にヒットしたライフル弾は、シャッと短い叫びを残して群れのリーダー格を脱落させる。驚いた事にトルヴォサウルスの統率は、その後も乱れる事はなかったのだ。


「あと、3頭! ……いや、4頭! 更に数を増すか」

 セラミックに背を支えられている松上は、左右に分かれたトルヴォサウルスの先頭をターゲットにして射撃した。
 腹部の気嚢に命中した弾丸は、恐竜に気味の悪い声を発生させる。生意気にも奴らは哺乳類よりも効率がいい呼吸システムを持っており、鳥類と同様に低酸素状態でも平気で活動する事ができるのだ。

「くそ、何てしぶとい奴らだ! いい加減に諦めろ!」

 続けて2発を後続に放つが、腕を吹き飛ばしただけで致命傷には至らない。セラミックは目の前で繰り広げられている光景が、あまりにも非現実的すぎて映画のワンシーンのように思えた。

「おかしい……。銃で撃たれた事がないから、恐怖心がないみたい。音には敏感なはずなのに……」

「俺達がそんなに弱っちく見えるのかね?!」

 銃声には確かに怯むのだが、数頭が執念深く踏み留まった。尻尾を鞭のようにしならせながら、様子を伺うように旋回し、一定距離を保っているようだ。
 素早い動きに翻弄され、松上は徐々に狙いを外す。図体がデカい分、急所にでも命中させない限り、1発ではうまく倒せない。

「くそ! もうすぐ弾切れだ! 洞窟まで走れるか? セラミック!」

 そう言う松上自身が足を引き摺り、走れる状態でないのは明らかであった。
 肩を貸して走るセラミックがトルヴォサウルスを睨み付けた時、遠巻きにした包囲網が徐々に狭まってくる気配を感じた。松上の小銃が火を噴く度に目がくらみ、大音響に耳がつんとなる。

『ここまで2人で頑張ってきたのに……本当にくやしい』

 捕食対象として人間は、とても魅力的に映っているのだろうか。フサフサとした鬣を風に揺らせながら肉食恐竜の群れは威嚇音を発し、周囲をぐるぐると回る。その内の1頭が距離を詰めて、今にも飛び掛かってきそうな勢いだ。

「最後の1ッ発だ!」

 渾身の一撃は、惜しくもかわされた。思わず槍を握るセラミックの腕に力が入り、額から汗が一筋流れ落ちる。
 瀬戸際の緊張が最高潮に達しようとした正にその時、奇跡のような瞬間が訪れた。
 トルヴォサウルスは、赤子のような短い警戒音を発すると、我先にと文字通り尻尾を巻いて樹海に向かって退散し始めたのだ。

「一体、何が……起こった……?」

 松上が張り詰めた緊張の糸を緩めようとしたタイミングで、その答が現れた。細身の貴婦人のような美しい姿をした肉食恐竜が、樹海の木々の枝を器用に避けてヌッと2人の前に躍り出た。

「あれは……何?」

「……! 奴だ、今度はアロサウルスだぜ、セラミック……!」

 松上は呆けたように見とれると、しばし絶句した。もう運命に抗う術は殆ど残されてはいない。そんな無力な男女を嘲笑うかのごとく、アロサウルスは足元にばたつく瀕死のトルヴォサウルスにとどめを刺した。
 どうも生きている獲物にしか興味が湧かないらしい。周囲に散乱する鬣付き恐竜の血まみれ死骸は、臭いをすんすんと嗅ぐだけのようだ。

「参ったな……」

 弾倉が空となった小銃はとっくに捨ててしまった。松上は冷たい銃の代わりにセラミックを、まだ自由に動く方の腕で強く抱き締めた。

『君だけでも逃げろ』

 セラミックは僅かに両目を見開いた。言い尽くせない感情が綯い交ぜとなった彼の、囁くような心の声を確かに聞いた気がする。

「松上さん……」

 大きさを感じさせない脅威的な身のこなしでアロサウルスが迫り来る。さすがに雑魚恐竜とは比べ物にならないほどの絶望感だ。
 
 ――どこからか大口径の銃弾が多数降り注ぎ、地面を派手に掘り返す。爆発的な衝撃が空気を震わせると、さすがにジュラ紀最強の肉食恐竜も泡を食って跳ねた。

「松上さん! セラミック! 助けに来たわよ! まだ生きてるの~!?」

 聞き覚えのある声の主は、やはり中山健一だった。崖崩れの現場からザイルを使って降下中に射撃を敢行してきたのだ。
 彼が持つ、自慢の50口径の銃口からは、熱く白い煙がたなびく。

「受け取って、どっちでもイイから早く!」

 叫び声と共に急峻な崖から滑り落ちてきたのは、片手で連射可能な大型ショットガン(フランキ・スパス12)であった。
 セラミックがはっきり覚えているのは、自分でも信じられないスピードと力で重い散弾銃を松上に手渡した事。両耳を両手で塞ぎ、腰を曲げると自ら銃架の代わりとなった。

「うぉらああああァァ!」

 最後の力を振り絞った松上は、追いすがるアロサウルスに向けてシャワーのように全弾を浴びせかけた。数メートル先でバランスを失い、頭から崩れ落ちる恐竜に松上は何を感じたのか、涙を溢れさせる光景をセラミックは目の当たりにしたのだ。

「2人とも無事? 本当によかった! 皆心配してるわ!」

 地上に降りた中山健一が安堵の声を響かせる頃、凄惨な現場には死闘の跡に相応しい静寂が訪れた。





 夏も終わりにさしかかり、赤銅色に染まるような空気をあれほど騒がしく震わせていた蝉達の声も、いつしかまばらになっているのが感じられた。
 ここはおなじみ、カレー屋“セラ”定休日における、いつものカウンター席。居並ぶ客の姿もなく、似つかわしくないほどの落ち着いた雰囲気を醸し出している。
 その静けさを破る、年季の入ったドアの開閉音が唐突に。

「ごめん、ごめん! ちょっと忙しくて遅れちゃった。いつぞやの中山健一君みたいな失態だね」

「ちょっと何よ~、ダメでしょう! 責任逃れ? 開口一番それはないない! 何だかムカつく~」

 ばつの悪そうな吉田真美が中山健一に遅刻をたしなめられた。おまけに本日の2人は髪型が被ってしまっている。双方ともショート丈の黒髪ストレート左右分け。男女の違いはあるにせよ、まるで申し合わせたような奇妙な状況だ。

「賑やかなのは結構な事なんだが、もっと大人になろうぜ、お2人さん」

 今回の恐竜メニュー食事会は、暫く入院生活を余儀なくされていた松上晴人の全快祝いの意味もあったのだ。しかし当の本人はテンション低め。
 ジュラ紀へダイブしている時と打って変わって、無口で物静かな青年に戻ってしまうのは恒例の事であるが、何だかいつも以上に暗い。

 厨房に立つ白衣のセラミックが言う。

「リーダーは退院したばかりで、まだ本調子じゃないんですよ」

 その言葉に、少し痩せた松上が反応する。

「いやいや、完全に回復したからこそ、ここにいるんだよ」

「そうですか……」

 若干しおらしくなったセラミックに、松上は『しまった』と言いたげな表情を垣間見せた。
 両手を叩いて場の空気をリセットしたげな中山健一が言った。

「え~、本日のスペシャル食事会は、βチームのリーダーである松上さんの退院祝いなのですが……私こと中山健一のβチーム復帰祝いも兼ねて執り行いたいと思っております。皆さん拍手~」

 ぱらぱらと手を叩く音が響く中、セラミックは4名分の料理の用意に大忙しだ。厨房から派手なフランベの炎が上がり、出席者の歓声が聞こえてくる。

「何だか肉が焼けるいい匂いがしてきたわ~。お腹が減ってもう、たまんない。……実を言うと私、見習い新人であるセラミックちゃんの恐竜料理を食べるのは、今日初めてなの。すごく期待しているわよ」

 健一君が、さり気なく鋭い笑顔でセラミックにプレッシャーを掛けてくる。彼は男だがリーダーに(恋愛感情?)を抱いており、遭難中にセラミックと松上晴人が2人っきりとなり、濃密な時間を過ごした事実に激しい嫉妬の炎をフランベのように燃え上がらせていたという。
 男女の間に何が起こったのか、喧嘩もせず仲良く過ごしたのか等々……彼から執拗に問い質され、精神的に参っていたセラミックは、辟易とした記憶がある。

「私は問題ないけど、病み上がりなのに肉? 重くて消化も悪い料理をリーダーに振る舞うつもりなの? 言っとくけど、今回の肉は固いわよ」

「ッるさいよ! 健一君! 一番しんどかったのは、未成年で最年少のセラミックなのが分からないの? もうこのオッサンには残飯でも食わしときゃいいんだよ」

 ついに吉田真美が座席から立ち上がり、中山健一に噛み付いた。正にそのまま、彼に冷水でも浴びせ掛けるような勢いだ。

「何よ~! アンタは黙ってなさいよ」

 リーダーを間に挟んで、両者の睨み合いと罵り合いが続く。『いい加減に……』松上晴人の台詞が飛び出す前に、セラミックは元気な声を響かせた。

「ありがとうございました! 健一君、じゃなかった、中山さん。あれほどの遭難劇だったのに、まだ学生身分の私を気遣ってマスコミをブロックしておいたそうですね! 報道規制を敷いてくれたおかげで、私は家族にあまり心配掛けさせずに済みました。あれから学校にも何事もなく通えて、すんなりと日常生活に戻る事ができたのも、中山さんの的確な配慮の結果だと思ってます」

 彼女の流暢かつ、感謝の意がこもった言葉に、店内が水を打ったように一瞬しん、となった。





 
 真美さんはセラミックの発言を耳にして、なおも不満らしく小声で漏らした。

「なぁ~にが的確なのか。御家族についた優しい嘘が、もしバレたらどうするつもりだったのか……。『美久さんは体調不良にて、長野で2、3日休んでから帰ります』って私から電話した時、緊張で手が震えたわ」

「もういいじゃないか。セラミックの御両親には、リーダーとして本当の事を話すつもりだ。今日はそのために来たんじゃないか……」

 道理でどんよりと暗くもなる訳だ。セラミックは、せめて恐竜料理で彼に元気を付けさせようとフライパンを振るう手に拍車を掛けたのだ。

「サラダの後は、いきなりステーキです」

「わお!」

 一堂の注目が集まる一皿……正確には木製プレート上にある、こんがりとした肉塊からは香ばしい何かが、まるで見えない狼煙のように湧き上がり、カウンター越しからの熱い視線を集める。
 ビジュアル的にはシンプル極まりない。飴色のパリッとした表面にはナイフが入れられ、6等分された傍にポテトフライも添えて肉汁を堰き止めている。断面からはフレッシュな肉色が覗き、それはクレソンの草色と見事なコントラストを描いていた。ニンニク入りマスタードと岩塩が、お供えのように盛られている。

「ふむ、これはおそらくトルヴォサウルスだね」

 まずは松上晴人の前に供された恐竜肉の正体が、呆気なく看破された。

「さすがはリーダー。若鶏じゃなくて若竜の揚げ焼き、ステーク・フリットです。高温のヒマワリ油を回しがけしながら火入れしているので、サクッとした食感としっとりとした中身が楽しめるんです」

 3名に配られたインパクトあるステーキは、みるみるうちにフォークで口の中に運ばれてゆく。真美さんは上品にナプキンで口元を拭いながら言う。

「肉食恐竜のモモ肉なんて固くてダメだと思ってたけど、これは本当に柔らかいね」

 白帽を乗せた頭を得意げに、ほんのちょっぴり傾げたセラミックは秘密を明かした。

「ふふふ、実は熟成(ドライエージング)をかけて肉を柔らかくしてみたんです」

 口中でじんわり拡がる凝縮肉汁と、鼻から抜けてゆく炒り豆やナッツにも似た熟成香……松上は己の味覚・嗅覚神経を総動員しながらそれらを受容すると、冴えた脳髄に叩き込んだ。そして溢れいずる幾千単位にも及ぶ各情報を瞬時に取捨選択した後、簡潔な言葉として刻んだ。

「乾燥熟成させるとタンパク質分解酵素の働きで、旨味成分のアミノ酸やペプチドが増えると同時に柔らかくなるんだよね。あれからだいぶ経つが、よく腐らせなかったな」

「父親のツテで専門業者に頼んでみたんです。肉が戻ってきた時は縮んでカビだらけだったからビックリしましたよ」

 カビという単語に中山健一が過剰に反応した。

「えぇ!? カビ! 夏場にそんなもの食べて大丈夫なの?」

「まあ、白カビ・青カビのチーズと同じようなモノだと思ってもらえれば……。大きかった肉も、悪くなった部位を削っていくと、最終的に食べられるところは1/3ぐらいになっちゃいました」

 セラミックと中山健一のやりとりに真美さんも一言。

「健一君は海外生活も長いのに食文化の違いくらい経験してるでしょうに」

「海外でも人一倍、食あたりには注意してるから言ってるのよ!」

 姉妹いや、兄妹のような2人にセラミックは、クスクスと笑いをこらえるのに必死となった。さりげなく松上のプレートをチラリと確認すると、綺麗に平らげている事が分かり、少し安心する。

『良かった……食欲もあるし、口に合わない事もなかったんだ。……よ~し! これはいける!』

 セラミックは次の料理に取り掛かった。何と掟破りの連続肉料理、ダブルメインディッシュ、焼き肉食い放題の店状態である。