病室の前で、美緒が待っていた。
「まだ、いたのか」
すると、彼女は悲しそうな顔をした。
「あたしがいたら、迷惑?」
別に美緒がいるからって、何かあるわけでもない。
「全然」
ふっと、彼女がほころぶ。
「ねぇ、今、ケータイ持ってる?」
「あるけど、何?」
そう言いつつ、ポケットからスマホを取り出す。高校へ入学すると同時に買ってもらったもので、まだ2ヶ月くらいしか使っていない。
「連絡先、交換しよう!」
彼女の言葉に、戸惑ってしまう。
「だってさ、お兄ちゃんのこと知ってるの拓海くんだけだし。何かあったらすぐに相談したいから」
「ああ、分かったよ……」
面倒臭そうにする演技をしつつ、俺は内心すごくドキドキしていた。好きな女子との連絡先の交換と、そこからのベタな展開の妄想で、頭が一杯になった。
「じゃあ、試しにメールするね」
彼女の言葉で我に帰る。
彼女は俺に背を向けて、何かを打ち込み始めた。

「送信!」
その言葉のゼロコンマ何秒かして、ピロンとケータイが鳴った。

『拓海くんへの初メール!
ねぇ、何であたしを助けてくれたの?』

「おい」
「何?」
「目の前にいるのに、何でメールで訊くんだよ」
「だって……」
彼女が俯く。恥ずかしいとでも言いたいのだろうか。だったら、もっと恥ずかしくさせてやろうと俺は考えた。
「俺は……、君の笑顔が見たいから。だから、助けようと思ったんだよ」
ふざけて言うと、彼女は顔を真っ赤にした。大成功、と思った。
けれど、一つ大誤算があった。それは俺も、めちゃくちゃ恥ずかしかったことだ。