部活が無かったから、今日はいつもより早く病院に行くことにした。何度も通った道を、慣れた足取りで進んでいく。病院へ着くなり、母の病室へ向かった。その扉の前に、人影があった。
「美緒?」
俺が声を掛けると、待ってましたと言わんばかりに、勢いよく顔を上げた。
「お前、どうしてここに居るんだよ」
今のマズかったかな、突き放したみたいで。
「昨日、お母さんが入院してるって言ってたから、今日も来るかなって思って」
「そうか」
2人とも黙り込む。静かな時間が少しの間、流れた。
「あのさ」
沈黙を破ったのは、美緒だった。
「お兄ちゃんが、ご飯食べたんだ。ちょびっとだけど」
「…良かったな」
彼女が、笑った。その笑みは、いつもの彼女のそれだった。