~夕方・美緒の家の前にて~

『それじゃあ、また』
『うん』

背を向けて歩き出す。

『あ! 待って、拓海くん』

振り向く。

『ねぇ、あたしとお兄ちゃんを、全国大会に連れていってよ』
『はあ?? 』

一体何を言うんだ、と思った。
でも、真っ直ぐ見据えてくる彼女の目は、本気で俺を信じている目だった。

『あたしを照らす、太陽になってよ』

だから、

『分かった。約束する』

夕日に淡く染まった街の中で、誓った。

「いきなり『全国大会に連れていって』だってよ。全く、大層な約束しちまった」

俺の言葉に、父は声を上げて笑った。

「美緒ちゃんだっけ、カワイイな」
「何が」
「いいなぁ、青春だ。会ってみたいな」
「母さんが落ち着いたら、紹介するよ」
「……そうか、楽しみだな」

すると、扉の向こうから、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。2人同時に立ち上がる。

「無事、生まれました。2800グラムの女の子です」

中から出てきた医者が言う。

「おめでとうございます」

その一言を添えて、医者は去っていった。父と2人、喜びを噛み締めた。