「実はね……」
そして、彼女は全てを話してくれた。
彼女は5歳の時に両親を事故で失い、今の家族に引き取られたのだという。新しい環境に戸惑い、不安でいっぱいだった彼女を、お義兄さんは温かく迎え、支えてくれたそうだ。そんなお義兄さんが、突然倒れたというのだった。
原因は脳腫瘍。もし回復しても、もう歩けないかもしれないそう。
「そうか……、辛いな」
美緒は力無く頷く。彼女の為に、俺は何が出来るのだろうか。
「それで、今日学校休んだんだよな?」
「そう」
「みんな心配してたぞ」
彼女の目から一筋の涙が溢れる。
「美緒、お前が泣いてどうすんだ。お前は
いつも笑顔でお義兄さんを支えて、クラスのみんなを安心させなきゃ。そうだろ?」
「うん」
「もし辛くなったら、その時は言ってくれ。出来る事は何でもしてやるから」
そう言って、立ち上がり背を向ける。
「拓海くん!」
「ん?」
「ありがとう」
彼女は笑って言ってくれた。

次の日も、美緒が学校へ来る事はなかった。朝のホームルームの時間、彼女の親友の優華が心配して、先生に欠席の理由を尋ねた。
「えっと、俺も体調不良としか……」
担任の宮下健吾(剣道部顧問)が曖昧に答える。
「誰か、理由を知ってる奴、いるか?」
俺は全てを知っている。でも、決して言ってはいけない。

~前日・病院にて~
『拓海くん!』
『ん?』
『ありがとう』
『ああ。いいんだ。じゃあ』
『待って。一つ、お願いがあるの。このこと誰にも言わないでほしいの』
『……わかった』
余計な心配を掛けさせたくないのだと、彼女は言った。でも結局、みんな心配してるけど。