俺と美緒は、豊橋行きの特急に乗った。
休日という事もあり、乗客は少なかったから、贅沢にもクロスシートに向き合って座った。

「今日の拓海くん、すっごいカッコよかったよ!」
「……」
「だって本当すごいじゃん。1人だけだよ、1回戦から決勝まで2本勝ちしたの。うん……すごいよ」

彼女にそう言ってもらえて、率直に嬉しかった。

「ありがとう」

俺は少し、眠くなってきた。試合の疲れだろう。

「美緒、ちょっと寝ていい? 」
「うん、おやすみ」

目を閉じてみたけど、全然寝れなかった。
ああ言った手前、すぐに起きるのもどうかと思ったので、しばらくそのまま目を閉じていた。薄目で彼女を見ると、窓の外を眺めていた。

その横顔は夕日に照らされ、いつも以上に透き通っていた。
彼女は俺の視線になど気づかないで、じっと何か感慨にふけっている様子。
でも、何か、待っているような気がした。
今なんじゃないか?
でも……。

「……ん。美緒、何見てんの? 」
「? あ、おはよう。ちょっと、景色をね」
「そうか。……なぁ、美緒」
「何?」
「俺も、正直に言うよ」

彼女が真っ直ぐ見つめてくる。
何を言われるのか、悟ったような風で。

「俺も……、俺も、お前の事が好きだ」

見つめてくる表情は動かない。
と思うと、彼女の口が小さく「えっ」と動いた。

「俺と、付き合って下さい」

しっかりと、彼女の目を見て言った。すると彼女は俯いて、目元を押さえた後、顔を上げた。

「はい」

ヨレヨレの声で、言ってくれた。
そんな彼女が愛おしくて、俺は隣の座席に移り、抱きしめた。

「幸せっ……だなぁ……」

彼女は、俺の背中を濡らしながら言う。



『次は、終点・豊橋、豊橋~』
アナウンスが、のんびりと流れた。