表彰式が終わり、控え場所であった観覧席に戻ると、俺は防具の紐をほどき、道着になった。
今まで身体に張り付いていた緊張感が、スッと消えていく、そんな感触だ。
ひと息つき防具をバッグに詰めていると、スマホが鳴った。
画面には、

『橋元美緒』

と表示されていた。
俺は早足でロビーに出て、5回目のコール音と同時に通話ボタンを押した。

「……もしもし、どうした?美緒」
『拓海くん、今、大丈夫?』
「ああ」

そこで一呼吸置いて、彼女は言った。

『今日、2人で帰らない?』
「いいよ」
『……良かった。じゃあ、名古屋駅の銀時計まで来てね』
「分かった。電話、切るぞ」
『うん』

切ると言ったものの、どこかに切るタイミングを探り合う、不思議な間合いが起きる。
そして、そっと受話器のマークをタップして切った。

そこですぐに切り替えて会場内に戻り、片付けの続きをした。



準備を終え、宮下先生のところへ行くと、

「長谷川。もうその事は橋元から聞いてる。早いとこ行ってやれ」

と言われた。
そんなことまでしていたのか、あいつ。

「すいません。失礼します」

俺はそれだけ言って、荷物を持つと、彼女の待つ場所へ走り出した。