俺は病室の扉をそっと閉じて、歩き出した。
何かの薬品なのか、独特な香りが病院にはあって、それがなんだか人を緊張させるような気がする。
今歩いているリノリウムの廊下にも、その香りは漂っているのだけれど、射し込む夕日の暖かさで少し和らぐ気がした。
「えっ」
俺は思わず声を出していた。美緒が一人椅子に座り、肩を震わせ泣いていたからだ。
いつもクラスメートとはしゃいでいるイメージしか無いのに。どうしたのだろうか……。声もかけられず立ち尽くしていると、美緒がスッと顔を上げた。
「…拓海、くん?」
彼女の目は真っ赤で、腫れていた。
「美緒、どうしたんだよ」
だってそうだ。いつも友達と喋って、笑って。悲しい事なんて一つも無さそうな彼女が、泣いているのだ。
「ちょっとね、悲しい事があってね」
無理に笑顔を作ろうとする。それが余計に、俺を戸惑わせる。『助けてやりたい』と思った。
「俺で良ければ、話聞くよ」
言ってやると、
「ありがとう」
彼女はそう言って、また目に涙を浮かべた。