指定の観客席の待機場所でへ行くと、回りでは既に何十人もの剣士が準備をしていた。
眼下のアリーナからは、竹刀の音も聞こえてくる。

「拓海くーん！ 」

声に顔を上げると、美緒が俺に向かって走って来た。

「ちょっ、静かにしろよ！ 」
「ああ、ごめんごめん」

私服の彼女は、本当に可愛くて、俺は手を止めて見惚れてしまう。

「おい。お前どういう事だよ」

隣で準備していた剣斗が、俺をつつきながら言ってきた。

「……何が」
「何で美緒がいるんだよ」
「それは……」

固まる。何て言えばいいんだ……。

「あたしが観に来ちゃいけないの？ 」

彼女が剣斗の方を向く。剣斗も少し、戸惑っているようだ。

「いや、別に」
「そう。なら良かった」

彼女は笑顔になった。
結局、こういう時には美緒の方がちゃんと物事を運べるらしい。
すごく助かる。

「拓海くん……これ」

美緒が言いつつ差し出してきたのは、“必勝”と書かれたお守りだった。

「絶対勝ってね。あたしも応援するから」
「うん。ありがとう」
「あ、ねえ。今日の試合どこらへんでやるの？ いっぱい線引いてあるけど」
「ちょっと待って、確認してくる」

先輩の席に置かれているプログラムとアリーナを見比べる。

「あそこの試合場」
「うん、わかった。じゃあ、応援してるからね！ またね！」

美緒は笑顔を見せて、俺の試合場の近くの観客席へ向かった。
それを見送り振り返ると、先輩達はもう準備を終え待っていた。

「早くしろよ」

野嶋先輩に言われて我に帰り、俺も防具をつけた。