美緒が学校を休んだ。

普通に考えたら、それほど深刻になるようなことではないが、彼女が休むことなんて滅多に、というか今まで全くなかったから、クラスメートは皆一様に不安げであった。
俺はなんだか寂しい気持ちだった。

いつもの美緒の甲高い笑い声は聞こえてこないし、彼女のグループの子たちはちょっと浮かない顔。
なにもかもいつもと違くて、どこか宙ぶらりんな1日だった。

学校終わりの夕方の部活は、少し早めに切り上げた。母の見舞いに行くためであった。
“見舞い”とは言っても、そんなに深刻になることでもない。
母は出産のために入院しているのだ。
高校生の俺に妹ができる。
この事実を知った時、俺の母に会ったことのない高校からの知人は、母のことを仕切りに心配した。
おそらく、“高齢出産”だと思っているのだろう。だけれど、その心配をすることはない。現在母は33歳だ。俺は16歳。つまりは17歳の時に俺を産んでいる。
別に俺の家が訳ありというわけではなく、6歳年上の父と、高校を中退して結婚し、しっかりと育てられた。2人は自慢の両親だ。

1人用の病室の扉を開けると、母が顔を出した。
「拓海、いつもありがと」
「ん」
特段なにを話すわけでもない。
とりあえず、毎日顔を出す。それだけだ。
今日も手短に用事を済ますと、
「じゃあ、俺、帰るわ」
「ん、ありがと、拓海」
「ああ、また明日」
そうして、病室を出る。いつも、それだけだった。