美緒と待ち合わせの約束をしている正門は、道場と全くの反対側にある。
すれ違う誰もが、俺の防具とかの荷物を見て、大変そうだなという目で見てくる。そんな目を向けるのなら持って欲しい。

やっとの事で正門に着くと、既に彼女が待っていてこちらへ駆けてくる。

「美緒、待った?」
「ううん。あたしも今来たとこ」
「そうか、よかった」

2人並んで歩き出す。
今までこんな風に、女子と歩いたことがないからなのか、何だかすごくフワフワした感じだ。そんな俺にはお構い無しで、彼女はニコニコと顔を覗いてくる。その顔に、俺はつい見入ってしまった。

「何あたしに見惚れてんの!」

プゥと頬を膨らませる。

(可愛い)

「拓海くん、罰金10万円」
「高っ!」
「あたしの顔にはそれくらいの価値があるんです!」
「はいはい」

会話が途切れる。
俺が横を見ると、彼女は何故か、急に真顔になっていてハッとする。

「どうしたんだよ、急に」
「ねぇ、本当のこと言っていい?」
「……」
「あたし、ずっと拓海くんのこと、見てたんだよ」

瞬時には、彼女の言っていることが理解できなかった。

「え…それって、どういう事?」

彼女が俯く。心なしか、その頬が紅い。
そこでなんとなく、話の真相がぼんやりとだけど見えてきて、俺は少し焦った。

「だから、ね。あたし、拓海くんのことが好きなの」

恥ずかしそうに、彼女は俺に言った。
その様子がなんとも言えず可愛らしくて、俺はまた、彼女に惚れてしまった。

「……そう、なんだ」
「ん?」
「なんでもない」

このまま俺も、想いを伝えたらどうだろうとも思ったけど、まるで彼女の気持ちを聞くのを待ち構えていたようになってしまいそうだったから、やめた。

「あっそうだ!明日試合なんだよねっ」

彼女が照れ隠しのように言う。

「そうだけど、何?」
「あたし、観に行きたいんだけど」
「……良いけど」
「何?」
「いや。来るのはいいけど、騒ぐなよ。試合の邪魔になるから」

すると彼女は微笑んだ。

「断られるかと思った」
「え?」
「ううん。じゃあ、また明日ねっ!」
「ああ、また明日」

彼女は走って、俺の家とは反対方向に消えて行く。その姿を見送った後、踵を返して家路へとつく。

一歩一歩、彼女との約束に胸を弾ませながら進む。澄み渡るような心地がした。
見上げた空は、日が沈み、夕方から夜へ変わろうとしていた。