俺はいつも、1番乗りで道場へ来るようにしている。さっきのことで時間を使ったから2番手くらいかと思ったけれど、今日もまた、1番に道場へ入った。
道着に着替え、防具をつける。

「お願いします!」

剣斗が来た。

「拓、またお前1番だな」
「ったりめーだろ」
「野嶋先輩遅れるってさ、生徒会で。素振りからやっとけって」

野嶋先輩は部長で、団体の次鋒(団体戦5人のうち2人目)だ。生徒会長もしているいわゆるエリート。

「了解」

準備を終えた俺は、竹刀を持って立ち上がる。

「そういや、さっき美緒と話してなかった?」

不意に剣斗が漏らした言葉にドキリとした。
周りに人がいなかったから、大丈夫だと思ったのに。

「あいつと何かあったのか?」
「い、いや、何にも」
「怪しいなぁ」
「……」
「……?」

うっわー。すげー面倒な事になりそうだ。


稽古は軽めに済ませた。すぐに明日の試合へ向けての準備に移る。
野嶋先輩は20分ほど遅れてやって来て、俺たちの稽古をつけてくれた。実戦形式の地稽古という練習では、綺麗にメンを取られてしまった。さすが先輩だ。

俺は準備が終わると早々に、防具袋と竹刀袋、そして学校のカバンを持って立ち上がる。大荷物だ。
早く行こうとするのはもちろん、美緒との約束があるからだ。

「野嶋先輩、お先に失礼します」

丁寧にバッグに防具を詰める先輩に声をかけると、先輩は顔を上げて、笑ってくれた。

「ああ、お疲れ。気をつけて帰れよ」
「はい」
「それから……、明日は頼むぞ、大将」
「はいッ。しっかり頑張ります」

一礼して、道場を出た。
『頼むぞ』か……