それから、俺達は良く話すようになった。部活が終わって家に帰り、俺は莉央さんと電話で話しているところだ。

「倉田さん、明日の時間割って変更ないよね?」
「あったんじゃないかな。確か、現代文が漢文に変更とか……」
「えっ!マジで?宿題やってねえし!」
「じゃ、早くやらないとね」
「ああ。ありがとう。じゃあね」
「うん、じゃあね」

スマホの画面をタップすると、俺は何とも言えない満足感に満たされた。
しかし、酔いしれている場合ではない。
自分を奮い立たせて、勉強机へ向かい宿題を始めた。

翌朝も部活があって、終わってから俺は急いで教室へと向かった。扉を開けると、俺の席にはやはり、莉央さんが座っていた。

「おはよう」

声をかけると、

「おはよう」

と、いつもの真っ直ぐな笑顔で返してくれた。
俺はバッグを机の上に置き、莉央さんが避けてくれたので、自分の席にどかっと座った。

「あー、腹減った〜」

キチンと朝食は食べて来たのだけど、成長期の男子には少ない。朝練だけでほとんど消費してしまう。

「これ、食べなよ」

右後ろから、彼女の声がして、野球ボールほどの大きさのあるおにぎりが差し出された。

「これ、俺が食べていいの?」
「うん。そのために作って来たんだもん」

はにかみながら、彼女は言う。

「あ、ありがとう」
「川合くん、いつも朝練のあと腹減ったって言ってるでしょ。だから、ほら食べて」
「う、うん」

ラップを解いて、口に入れると、中身は鮭フレークだった。
程よい塩気が、俺の食欲を刺激する。胃袋を満たすには少ない量だけれど、彼女のおにぎりは間違いなく、俺の心を満たした。

「ごちそうさま」
「ねぇ、川合くん。あのさ、下の名前で呼んでもいい?」

彼女が言う。

「いいよ」
「じゃあ、峻輝くん」
「はい」

なんだか凄く恥ずかしい。ただ単に呼び方が変わっただけなのに。

「じゃあ、俺も莉央ちゃんって、呼んでいい?」
「うん」
「……莉央ちゃん」
「はい」

なんだか、むず痒い心地だ。だけど、改めて俺達は運命の出会いだったんだなと、感じた。