朝練習は、約1時間行った。

基本打ちから地稽古まで、みっちりとして、8時15分に終了した。

俺は素早く片付けをして、教室へ向かう。

いつも、朝練習があったとしても、教室へはなるべく早く入るようにしている。

昇降口で靴を履き替えて、教室へ入ると、窓際に一つの人影があった。俺が静かに近づいていくと、気づいたその人影フッと振り返ってくる。
またしても、彼女だった。

「倉田さん、そこ、俺の席だよ?」
「あ、うん。ごめんね」
「まぁ、いいけどさ」

彼女はゆっくりと立ち上がって、右後ろの自らの席へ向かう。

「あのさ、川合くん。本当のこと、言うね」
「……」

突然の彼女の真面目なトーンに、俺はドキッとしてしまう。

「な、何?」
「あのね……」

莉央さんは少し考えるように俯いて、しばらくして顔を上げた。覚悟を決めたような、そんな気配。
俺も、ゴクリと唾を飲んだ。

「私、……川合くんのことが、好きなの」
「えっ」

俺は言葉を詰まらせる。彼女は、次の言葉を探すように目を泳がせる。
その仕草がなんとも言えない可愛さだった。

「だから、毎朝、川合くんの椅子に座ってたの。最初は、川合くんの来る時間には自分の席に戻ってたんだけど、なんか、離れられなくてさ」
「そうなんだ」
「ね、怒ったりしてない?」
「するかよ」

俺は笑う。

「俺も、倉田さんのこと好きだよ」
「えっ?」
「本当だよ」

俺は言って、彼女との距離を縮める。そして、抱きしめた。莉央さんはそれを受け入れて、背中に手を回してくる。
すると、廊下から小さく足音が響いてきた。

「みんな、来ちゃうよ」

彼女が耳元で囁く。
その声は、心なしか少し嬉しそうな色を滲ませていた。

「別にいいだろ、見られたって減るもんじゃないし」
「……うん」

俺の中で、トクトクと、心臓の鼓動が速まっていった。それと同時に、俺の中の恋への気持ちも大きく動き出していた。
直接感じる彼女の温もりが、嬉しかった。