帰りのSTが終わり、担任の教師が出て行くと、そこは自由な空間になる。女子はいくつかのグループに分かれて話し始め、男子はみんなでワイワイとやりあう。
部活前のそのひととき、みんなテストのことや色んな悩みは完全に忘れ、楽しんでいる。

このクラスの女子の1番明るい、盛り上がっているグループの中心にいるのは、橋元美緒、っていう、俺が気になっている子だ。
いつも大きな声で笑って、楽しそうにしていて、それでいて部活のバレーは司令塔を任されているらしい。
素直に、すごいと思う。

俺が通う高校は、愛知県豊橋市にある豊橋中央高校。言ってしまえば普通の高校で、地元では“なかこう”の愛称でお馴染みだ。
部活動もなかなか力を入れていて、俺が所属する剣道部は県大会の常連、さらには何度も東海大会まで出場している。
いつも、校内の1番奥まったところにある武道場で汗を流している。
俺はまだ1年生が始まったばかりだけど、小学校に入る前から剣道をしてたお陰か、先輩にも気に入られていた。
先生も、レギュラー取れるかもなと言っている。
頑張るしかない。

で、俺が美緒に恋をしたのは、入学してすぐのことだった。誰にでも明るく声をかけて、屈託のない笑顔を見せる。
「長谷川拓海くん、だよね。よろしく」
手を差し出してくる。
「あ、うん。よろしく」
握手した。
それと同時に俺の中で何かスイッチが押されたようだった。

それから毎日、無意識に美緒を見てしまっていた。気にしていた。
それが恋だと気づくには、そう長い時間はかからなかった。