さくらの目の前には、平皿、深皿、コーヒーカップ、花瓶が並んでいる。

白磁に描かれた色とりどりの大輪の花や、綿密な曲線を描く葉や茎は、中国の屏風絵を彷彿とさせた。

「こちらは、オーストリアの女帝マリア・テレジアのために考案された、リチャード・ジノリのグランデューカというシリーズです」

 出た、リチャード・ジノリだ。祖母の一件で面識のあるブランドの再登場に、良太は心なしかわくわくしていた。

「前回の講座でテーマにしました、シノワズリと呼ばれるジャンルの食器になります」

 ルイの説明に、さくらが頷いた。

「覚えています。十七世紀、ヨーロッパで流行した中国趣味のことですよね」

「さすが、勉強熱心なさくら様ですね」

 ルイが、嬉しそうに言った。

「八宝菜のような中華料理も、ときにはシノワズリの食器に盛りつけると、新鮮な食空間が作れます。とくにシノワズリは、中華食器よりもやわらかい空気を生むので、人の心を和やかにして本音を引き出す効果も期待できるでしょう」

「本音? 食空間を工夫するだけで、本音まで聞き出せるというんですか……?」

 半信半疑な様子のさくらに、ルイは深く頷いて見せた。

「大好物の料理にそれを盛り立てる演出は、人の心を開放する絶好の機会をくれます。政府が海外の要人を招待したときに、食事プランに余念がないのも、相手の本音を引き出し政治関係の打開策を探る目的があるからなのですよ」

 祖母もそうだったと、良太は思い出す。懐かしの食事に心を揺さぶられ、祖母は心の奥にくすぶっていた祖父との関係を吐露した。

けれども、今回は祖母の件とはわけが違う。直樹の本音が、さくらにとってプラスである確証はないのだ。

だから、ルイの講釈を聞きながら、良太はそわそわと落ち着かない気分になっていた。

「シノワズリの演出が際立つよう、ナプキンは赤いものをご用意しましょう。テーブルクロスは二枚使いで、トップは白磁が引き立つ濃紺、アンダーにはナプキンと揃いの赤を覗かせましょうか」

 説明しながら、ルイがテーブルウェアで次々と目の前のテーブルを飾っていく。

フランス製のカトラリーと箸を並べれば、あっという間に西洋と東洋が混在したシノワズリの食卓の完成だ。

「素敵……」

 ルイの手で様変わりしていくテーブルに見とれていたさくらが、恍惚と呟いた。