うしろまえ  



泳いでる海がみるみる干上がってゆく感触の果てに目覚める



休日の朝七時から一日をなぜだかあきらめてしまうんだ



十七の春に自分の一生に嫌気がさして二十年経つ



悪口を言われてる気がすることを自己紹介の途中に言った



パトカーが一台混ざりぼくたちはなんにもしてませんの二車線



電柱を登ってゆける足がかりとても届かぬ位置より生える



うしろまえ逆に着ていたTシャツがしばし生きづらかった原因



「呪われたみたいに肩がこってる」と言ったオレだがなぜ分かるのか



自己嫌悪にうっとりとしているあいだベルトゆるめに締めている手は



おそろしい形相をした歳月がうしろからくる 前からも来た



出前用バイクは昨日見た位置の五十センチほど後方にある



あたためたはずのパスタが冷たいのも自分のせいと知るべきだった



田舎芝居「平謝り」を披露してそのブザマさにより許される



まったくの時間の無駄と知っていてなお口喧嘩必殺の法



ドブに捨てるようなものだと冗談に聞こえるように言って千円



バカにしているのを見やぶられかけて次の細工は丁寧に編む



他人への刃がクシャミしたせいで自分の胸に、ほら刺さってる



目を閉じて夜の電車に乗っているできれば耳も脳も閉じたい



ぼろぼろを渡って帰る二十二時ぼろぼろは来てくれた部屋まで



死にたくて飛びこんだ海で全身を包むみたいに今日を終わらす