「そりゃそうですよ、だってもうすぐ、PP1800ポイント以上の、ハイクラス交流会があるんですもの、ねぇ?」

PP1802ポイントを引っさげたさくらが、余裕の表情で絡んでくる。

「横田さんも、参加なさるんでしょう?」

「それが人類の義務だから仕方がない。他に予定の入らないかぎり、出席だけはするようにしている」

「無差別級とか、ポイント低めの回に行っても、行くだけ無駄っていうか、面白くないですもんね」

「あたりまえじゃないか、そういった無駄と不幸を回避するためのPPであり、そのためのクラス別交流会なんだからな」

「だって、明穂!」

「だから、その前にPPを回復させなきゃいけないんでしょ」

「そうだよ、今度もまた、一緒に行こう」

さくらは、グッと親指を立てて、『あたしに任しとけ!』みたいなポーズ。

さくらが誘ってくれなかったら、私はそんなところに行こうとすら思わなかっただろう。

だけど、自分もそろそろ、変わらなくちゃいけない。

それは分かってる。

「1800越えの会なら、安心できるもんね、リハビリも兼ねて」

「そう言われてるから、前も行ったんじゃない」

「うふふ~、頑張ってねぇ~」

さくらは、それだけを確認すると、余裕の笑顔で去って行った。

ポイント1800は、私にしてはそれほど難しい数字ではない、ちょっと頑張れば、すぐに手の届く数値だ。

「なるほど、そういうことか。分かった、頑張れ」

横田さんが、突然冷静さを取り戻す。

変な気遣いも、よけいなことも言わないのが、この人流。

「ありがとうございます」

しかし、さくら以上に、余裕で2000ポイント越え、かつ、それより下に落ちたことがないという鉄仮面横田の応援の方が、しゃくにさわる。

悔しいけど、だけどそんなことを気にしたところで、自分のポイント回復になんの影響もないので、気にしないでおく。

むしろ負の感情は、PPにとってもマイナス要素だ。

「ちょっと、いいかな?」

そう言って、突然現れた森部局長の後ろに、すらりと背が高く痩身の、多分誰から見ても美人だと答えが返ってくるような、美しい女性が立っていた。

「このチームに、新しく配属が決まった山下芹奈さんだ」

山下芹奈、三十二歳、独身、女性。

この時代に、人手不足なんていう言葉はない。

必要な労働は、基本的にAIが行い、産業用ロボットによって管理生産されている。

全人類は、人間のために働くロボットによって、かつての貴族的な生活が可能となった。

働きたければ、働けばいい。

自分のしたいことを、したいように追求できる総貴族社会。

今やベーシックインカム、15歳未満300万円、15歳以上500万円の時代だ。

コミュニケーションセンターにいけば、無料で入れるお風呂に娯楽施設、図書館、マッサージ機に宿泊施設、併設されるレストランでは、誰でも利用できるバイキング形式の食事が、二十四時間待っている。

高性能産業ロボットと高機能AIに支えられ、まさに現在によみがえる古代ローマ人生活!

とは言っても、誰もがなりたい職業、やりたい仕事に就けるわけではない。

AIがマッチングした適正検査に、パスした職業でなければならない。

いくら医者になりたいと本人がわめいても、ただ熱意があるだけでは不可能で、やはりそれなりの知識と努力は求められる。

AIの誤作動を、監視する役割もあるからだ。

この職場も、政府独立機関であり、人の人生に関わるデータを扱う部署である以上、誰もが望んで就ける職種ではないのだ。

人手不足も関係ないとすれば、彼女は、それなりのエリートということになる。

私ももちろん、そのうちの一人なんだけど!