それからの七海ちゃんは変わった。
毎朝しっかり7時に起きて、ちゃんと指示通りに朝日を浴びているらしい。
出勤時間がまちまちとなっていた原因の夜遊びも減り、噂の1900彼氏との、深夜の長電話も時短にも成功した。
その彼とは、近頃は連絡も途絶えがちだったようだけど、彼女の急激な変化に向こうが不安を覚えたらしく、彼の方から会おうと言い出したようだ。
今度の週末は久しぶりに、遠方の彼がお泊まりでわざわざこっちに遊びに来るんだって。
「芹奈さんのPP回復プログラム、凄いですよ」
始めてからたった一週間、それだけで七海ちゃんには効果があったらしい。
「明穂さんはどうですか?」
「え?」
七海ちゃんに聞かれて、私は愛想笑いをしておく。
はっきり言って、私は実践していない。
あんなくだらない、おまじないか迷信みたいな行動指示になんらかの効果があるなんて、1ミリも思えない。
「さすがPPの魔術師ですよね、やっぱりこの局に中途採用されるだけあって、よくPPの仕組みをご存じですよね」
「いつから芹奈さんが、PPの魔術師になったのよ」
「だって、本当に上がったんだもん」
七海ちゃんは自分のPPを見せてくれた。
いつも1600代か、いっても1700代ぐらいまでしか伸びない彼女のPPが、1802をマークしている。
「私、今まで1800を越えたことなかったんです。正直、今回のこの成果は、PPの数値っていうだけじゃなくて、自分自身の壁をも、乗り越えたような気がしてます」
七海ちゃんは自分の数値を写し出した画面を、しみじみと眺める。
「で、明穂さんは?」
七海ちゃんはカメラを私に向けた。
カシャリとシャッター音がして、私の数値がはじき出される。
PP1658。
「ちょっと! 変わってないどころか、むしろちょっぴり落ちてるじゃないですか!」
「だって……」
「だって、なんですか? もしかして、芹奈さんのアドバイス、指示通りやってないんですか?」
私はぎゅっと口を結んだ。
やらないもなにも、やるつもりが一切ないのだから、やりようがない。
だまり込んだ私に、七海ちゃんはさらにたたみかける。
「え、なんで? 明穂さん、PP上げる気、ないんですか?」
「上げたいとは思ってるよ」
「じゃあなんで?」
再び黙った私に、彼女は心底、長い長いため息をついた。
「だからダメなんですよ、明穂さんって」
七海ちゃんは首を傾けたまま、天井を見上げる。
まったくもって人をバカにしたような態度だ。
「なんだかんだ言って、自分を変えようっていう気持ちが薄いんですよね。過去のトラウマだかなんだか知りませんけど、そのたけるをいっつも手放さないってのも、他に誰も何も言わないけど、はっきり言って気持ち悪いですよ」
「七海ちゃんまで、そんなこと言う!?」
「言いますよ。てゆーか、ずっと言いたいのを我慢してました。こないだ芹奈さんが言ってくれて、やっとスッキリしたぐらいです。明穂さんは一応先輩だから、ずっと黙ってましたけど!」
「だから、たけると今の話しは、関係ないでしょー!!」
この前の強制終了から調子の悪いたけるは、現在デフラグ中。
「関係ありますよ、そのたけるをリュックみたいに背負ってくるのも、女子高生ぐらいまでならまだ許せますよ。だけど明穂さん今いくつですか? 24ですよね、残念です」
言われたくない、言われたくないと思っていることは、自分でも分かっているけど、やめられないし、やめたくもないこと!
「いいじゃない、たけるは私のAI執事だよ? 七海ちゃんだってAI執事持ってるし、普通にみんな持ち歩いてるでしょ?」
「だけど、そんな巨大なピンクうさぎってねぇ」
今日の七海ちゃんの目は、とことん意地悪だ。
「明穂さん、それ、自分でかわいいと思ってるんですか?」
く、悔しすぎて返す言葉が出ない。
彼女は自分の意見に同意を求めようと見渡した、同じ部署の局員は全員背中を向ける。
「たけるを普通のスマホに変えたら、PPもちょっとは上がるんじゃないんですかぁ?」
泣いちゃダメ。
泣いちゃダメって分かってるけど、これだけは自分の意志で止められない生理現象なのだから、どうにもならない。
毎朝しっかり7時に起きて、ちゃんと指示通りに朝日を浴びているらしい。
出勤時間がまちまちとなっていた原因の夜遊びも減り、噂の1900彼氏との、深夜の長電話も時短にも成功した。
その彼とは、近頃は連絡も途絶えがちだったようだけど、彼女の急激な変化に向こうが不安を覚えたらしく、彼の方から会おうと言い出したようだ。
今度の週末は久しぶりに、遠方の彼がお泊まりでわざわざこっちに遊びに来るんだって。
「芹奈さんのPP回復プログラム、凄いですよ」
始めてからたった一週間、それだけで七海ちゃんには効果があったらしい。
「明穂さんはどうですか?」
「え?」
七海ちゃんに聞かれて、私は愛想笑いをしておく。
はっきり言って、私は実践していない。
あんなくだらない、おまじないか迷信みたいな行動指示になんらかの効果があるなんて、1ミリも思えない。
「さすがPPの魔術師ですよね、やっぱりこの局に中途採用されるだけあって、よくPPの仕組みをご存じですよね」
「いつから芹奈さんが、PPの魔術師になったのよ」
「だって、本当に上がったんだもん」
七海ちゃんは自分のPPを見せてくれた。
いつも1600代か、いっても1700代ぐらいまでしか伸びない彼女のPPが、1802をマークしている。
「私、今まで1800を越えたことなかったんです。正直、今回のこの成果は、PPの数値っていうだけじゃなくて、自分自身の壁をも、乗り越えたような気がしてます」
七海ちゃんは自分の数値を写し出した画面を、しみじみと眺める。
「で、明穂さんは?」
七海ちゃんはカメラを私に向けた。
カシャリとシャッター音がして、私の数値がはじき出される。
PP1658。
「ちょっと! 変わってないどころか、むしろちょっぴり落ちてるじゃないですか!」
「だって……」
「だって、なんですか? もしかして、芹奈さんのアドバイス、指示通りやってないんですか?」
私はぎゅっと口を結んだ。
やらないもなにも、やるつもりが一切ないのだから、やりようがない。
だまり込んだ私に、七海ちゃんはさらにたたみかける。
「え、なんで? 明穂さん、PP上げる気、ないんですか?」
「上げたいとは思ってるよ」
「じゃあなんで?」
再び黙った私に、彼女は心底、長い長いため息をついた。
「だからダメなんですよ、明穂さんって」
七海ちゃんは首を傾けたまま、天井を見上げる。
まったくもって人をバカにしたような態度だ。
「なんだかんだ言って、自分を変えようっていう気持ちが薄いんですよね。過去のトラウマだかなんだか知りませんけど、そのたけるをいっつも手放さないってのも、他に誰も何も言わないけど、はっきり言って気持ち悪いですよ」
「七海ちゃんまで、そんなこと言う!?」
「言いますよ。てゆーか、ずっと言いたいのを我慢してました。こないだ芹奈さんが言ってくれて、やっとスッキリしたぐらいです。明穂さんは一応先輩だから、ずっと黙ってましたけど!」
「だから、たけると今の話しは、関係ないでしょー!!」
この前の強制終了から調子の悪いたけるは、現在デフラグ中。
「関係ありますよ、そのたけるをリュックみたいに背負ってくるのも、女子高生ぐらいまでならまだ許せますよ。だけど明穂さん今いくつですか? 24ですよね、残念です」
言われたくない、言われたくないと思っていることは、自分でも分かっているけど、やめられないし、やめたくもないこと!
「いいじゃない、たけるは私のAI執事だよ? 七海ちゃんだってAI執事持ってるし、普通にみんな持ち歩いてるでしょ?」
「だけど、そんな巨大なピンクうさぎってねぇ」
今日の七海ちゃんの目は、とことん意地悪だ。
「明穂さん、それ、自分でかわいいと思ってるんですか?」
く、悔しすぎて返す言葉が出ない。
彼女は自分の意見に同意を求めようと見渡した、同じ部署の局員は全員背中を向ける。
「たけるを普通のスマホに変えたら、PPもちょっとは上がるんじゃないんですかぁ?」
泣いちゃダメ。
泣いちゃダメって分かってるけど、これだけは自分の意志で止められない生理現象なのだから、どうにもならない。