黒板に白墨を滑らす音がカリカリ、コツコツと静かな教室に小気味良響く。

その音を聞きながら平岩結人(ひらいわゆいと)はひっそりと誰にも気づかれぬよう溜め息一つ漏らした。

平岩結人は何もかもを知っていた。

何もかもを、と言うのは

秋川と一美が男女のそれであることを。

秋川が今この瞬間も一美を弄んでいると言うことを。

平岩結人はまた溜め息を一つついた。

やはり誰にも気づかれぬよう注意しながら吐き出した。