数学の教師である秋川秀(あきかわすぐる)はその立場とは不釣り合いな派手なネクタイを好んだ。

いや、

派手なその顔立ちに似合うものを選ぶと自然とそうなっただけのこと。

そして秋川はその派手なネクタイに指を引っ掛けると絶妙のタイミングで少し緩めるのだ。

そうそれは、牧野一美が動揺することを知っていながら敢えてのタイミングで細く伸びた右手の人差し指を使いほんの少しネクタイを緩める。

と同時に左手で白墨を一本手に取ると流れるような動作で牧野一美に差し出してやる。

それは意味のない一連の動作のようでいて、実は昨夜ベッドに裸で横たわる牧野一美にふざけて自分の吸う煙草を差し出す(さま)をフラッシュバックさせるべく。

全ては一美以上に計算高い秋川秀による悪ふざけだ。