「お帰りなさいませ。お夕飯はどうなさいますか?」

平岩家に何人かいる使用人の一人が自宅に帰ってきた結人に声を掛けた。

「友人と約束がありますので夕飯は結構です。」

結人は行儀よくそう使用人に告げると真っ直ぐに自室へと向かった。

恐らく両親も何処かで会食でもあるのだろうと結人は理解していた。

何故なら両親が在宅の場合は夕飯の時間を明確に伝えられるからだ。

しかしここ数ヶ月、両親と夕飯を共にした記憶が結人にはなかった。

結人は自らが置かれている立場を理解しているつもりであった。

なので家が裕福なのも十分な教育を受けれることも身の回りに不自由が無いことにも結人は感謝していた。

感謝すべきなんだとそう言い聞かされていたのだ。