離婚の話がどこまで進んでいるのかを、あえてわたしから触れはしない。
会えるペースも変わらないし、電話だけは毎日。聴こえる声はいつものナオさんで。

ただ顔を見れば。笑っていても、どこか冴えない色が滲んでいる気がした。
抱き締めて、貪るようにキスを求め。わたしの躰にだけ、たくさんの痕を残す。

まるで。自分の存在と居場所を確かめるように。上書きしてくように。






次第に秋が深まっていく。
空が高く澄んで、街路樹が衣替えを始める。

会社の行き帰りは、薄手の上着が着込まないと肌寒さを感じるようになり。
あっという間に日も暮れてしまう。

まだ7時前なのに濃紺が敷き詰められた夜空の下を歩き。
一日が終わった感で、どことなくホッとしながらマンションに帰ってきた時。
自分の部屋の前に、淡い色のコートを羽織った女性がひとり立っていたのを。

直感で。
ナオさんの奥さまだろうって。
・・・分かってしまっていた。