その時の先生は、医師の顔になっていたようにも思えた。
客観的に、冷静に。事実を伝えようとするように。

「気が付いたら一年くらい前からね。最初は疲れてるだけだと思ってた。開業するので忙しかったし、一時的なものだろうって。・・・でもまるで反応しなくなってた。二人目を欲しかった(かのじょ)は、心底軽蔑したような目で俺を見てたな。体裁が悪いから治療も必要ない、建前(かたち)だけ“夫”でいてくれたら離婚もしない、家族に恥をかかせるのだけはやめてくれ、ってね」

淡々とした告白。

ああ、違う。

・・・傷付いてないんじゃない。
抉られすぎて、穴が空いて。
ガランドウになった。

このひとも。


「・・・その人に抱いてもらえ、って。言ってやりたいけど、言いたくない。言う資格があるとは思ってないけど、・・・もう『会うな』」

わたしをきつく抱きすくめ、先生は小さく震えた。