片手ハンドルで、もう片方はわたしと繋いだままの、整った横顔をじっと見入る。

「はじめての診察ですごく緊張してたでしょ、沙喜。信頼してもらうのに時間かかるかなって思ってた。でも俺の説明を真剣に聞いてくれて、最後はほっとした笑顔で『ありがとうございました』って。・・・あの瞬間かな。歯科医として応えたい気持ちと、またこの子の笑顔が見たいって気持ちが両方あったからね」

ちょうど、大きな交差点の信号待ちに差しかかり、先生が静かに振り向く。
吸い寄せられるみたいに目が合って。
心臓をゆっくりと掌に包まれていく。・・・感覚に囚われた。

「こないだ、痛み止めがほしいって言われたでしょ。心配でしょうがなかった。仕事と切り離せなくなった患者はね、沙喜だけだよ」

紡がれる告白。
形に残らない、記憶にしか残せない、明日には跡形もないかもしれない。幻想。泡沫(うたかた)の夢。

「・・・沙喜が思ってるより、俺は沙喜を好きになってる」



だけど聞いてしまったら。もう消せないの。
爪先まで染みこんで。・・・しまうの。