僕は朝から苛立っていた。登校した直後、那音の顏を見るなり睨みつける。
「おはよ!」
抱きついてこようとする那音の腕を跳ね除け、僕は声を荒げた。
「那音。お前はやっぱり信用できない奴だよ」
僕が怒りを露あらわにしても、那音の態度が変わることはなかった。
「海愛ちゃん、本当に可愛かったな!」
「話をすり替えるな」
「まあそう怒るなって」
ふぅ、とわざとらしく溜息をつき、那音は笑った。
血圧が急上昇するのを抑えるため、大声を上げたくなる気持ちをグッと堪え、僕は穏やかな声色で那音に接する。
「で、あの後お前らはどうしたんだ? そのままデートか」
僕の言葉に那音はニヤリと口角を吊り上げた。
「野暮やぼなこと聞くなよ。それとも、興味ある?」
なんとなく察しがついた。それと同時に再び那音に対して苛立ちと呆れが沸き上がった。
「バーカ」
「なんとでも言え」
僕は那音がどうしてこんなにも明るく振る舞うことができるのか、不思議でならなかった。その考えを反かえせば、僕がおかしいだけなのかもしれない。那音の感覚が普通なのだとしたら、僕はやはり異常なのだ。