寿々崎心綺人
(すずさきみきと)
英語担当教師・三一歳・バイ
凌杏の恋人・両性具有
嫌がらせにあっている
雅和を父親のように慕っている
向瀬凌杏
(むかせりあん)
科学担当教師・二八歳・バイ
心綺人の恋人・ちょっと意地悪
高校時代の友人の姪で
二年生の雪原彩月と仲がいい
色んな{薬}を作るのが趣味
向瀬心咲
(むかせみさき)
凌杏と心綺人の娘
夜野田雅和
(よのだまさかず)
英語担当教師・五四歳
バツ一・十六年前、
息子が“イジメ”により他界
心綺人を息子のように思っている
凌杏との関係にも
賛成している
心綺人が嫌がらせらせ
されているのを知っている
寿々崎愛桜
(すずさきあいら)
主婦・五十一歳
心綺人の母親・理解者兼協力者
雪原彩月
(ゆきはらさつき)
高校二年生・腐女子
密告者兼協力者・凌杏と仲がいい
凌杏と心綺人の関係を知っている
小坂と多々羅が大嫌い
雪原桜祈
(ゆきはらさき)
カメラマン・二八歳・ゲイ
自由奔放・凌杏の友人
梛都の弟・彩月の叔父
理解者兼協力者
寿々崎卓
(すずさきまさる)
会社員・五三歳
愛桜の夫・心綺人の父親
心綺人の秘密を知らない
居橋想叶
(おりはしそうや)
会社員・五四歳
雅和の親友兼元恋人
心綺人同様両性具有
雪原梛都
(ゆきはらなつ)
S市の中学校教師・三八歳
虹空の夫・彩月の父親
桜祈の兄
雪原虹空
(ゆきはらにこ)
主婦・三八歳・梛都 の妻
彩月の母親
花咲廉耶
(はなさきれんや)
研究者・三一歳・既婚者
二人の子供の父親
心綺人の友人
雲川月花咲
(くもかわつかさ)
体育担当教師・五五歳
心綺人や廉耶の担任だった
両性具有だと知っている
久崎充希
(くざきみつき)
久崎グループ副社長・三一歳
心綺人をイジメてた
古門実穂里
(ふるかどみほり)
タクシー運転手・四八歳
凌杏と心綺人が
利用するタクシーの運転手
妊夫の心綺人を心配している
向瀬春瑠
(むかせはるる)
会社員・五十歳
凌杏の父親
仕事一筋で
昔から家庭を顧みない
凌杏のことも無関心
向瀬美釉
(むかせみゆ)
専業主婦・四十八歳
凌杏の母親
肆矢佳慈
(よつやかいじ)
三一歳・心綺人の
大学時代の元恋人
陽音の恋人
黒桂陽音
(つづらはるね)
三十歳・心綺人の
高校時代の元恋人
佳慈の恋人
愛染柊也
(あいぞしゅうや)
五三歳・藍染財閥の社長
柊和の父親・美卯達の祖父
久崎が嫌い
愛染美千留
(あいぞめみちる)
五十歳・柊也の妻
柊和の母親・美卯達の祖母
久崎の妻とは犬猿の仲
日伝蒼慧
(ひづたあさと)
三二歳・作家
遊羽の兄
ハンドルネームは
高司優夢
(たかつかさひろむ)
日伝遊羽
(ひづたゆうは)
二八歳・会社員
蒼慧の弟・凌杏の中学からの友人
善哉要
(ぜんざいかなめ)
科学担当教師・五七歳・ゲイ
凌杏と桜祈の担任だった
愛染柊和
(あいぞめひより)
主夫・三一歳・両性具有
要の元生徒で妻
四人目を妊娠中
藍染財閥の長男で
両親との仲は良好
久崎とも面識はある
善哉美卯
(ぜんざいみう)
小学六年生・十二歳・長女
しっかり者で優しいが、
ストレスを溜めやすく
情緒不安定になる時がある。
凌杏の◇◇薬を飲むと落ち着く
善哉梦卯
(ぜんざいむう)
小学二年生・七歳
長男・美卯の弟・月卯の双子の兄
やんちゃだが優しい
善哉月卯
(ぜんざいるう)
小学二年生・七歳
次女・美卯の妹・梦卯の双子の妹
のんびり屋・姉と兄が大好き♡♡
善哉柚卯
(ぜんざいゆう)
三女・一歳
四人兄弟の末っ子
小坂宗一郎
(こさかそういちろう)
現代社会担当教師・三三歳
誰からも
好かれている心綺人が気にくわない
ガキみたいな嫌がらせをする
多々羅昭典
(たたらあきのり)
現代社会担当教師・三十五歳
誰からも
好かれる心綺人が気にくわない
ガキみたいな嫌がらせをする
僕は恋人に
秘密にしていることがある。
それは、
《両性具有》だということ。
つまり、子供を産める。
月に一回、生理もくる。
最初に生理になったのは
確か、小学五年の冬休みだった。
男なのに生理だなんて
最初はやっぱり驚いたし戸惑った……
だけど、母さんは
「大丈夫よ」
と泣きじゃくる僕を抱きしめてくれた。
それから、月に一回くる
生理に徐々に慣れていった。
あれから二十年。
それなりに恋もしたけど
どの恋人にもこのことは
言えないまま別れた。
だけど、今の恋人の
凌杏には知って欲しいと思った。
だって、僕は凌杏の子を
産みたいから……
付き合って三年。
“そういうこと”を
したことがないわけじゃなかったけど
当然、挿(い)れるのは後ろ。
気持ちよくないわけじゃないけど
虚しさを感じていた。
*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。
『いらっしゃい』
約束の時間ぴったりに来た
凌杏を招き入れた。
『お料理の途中でしたか?』
匂いが玄関まで漂っていた。
『いや、出来上がってるよ』
今日はシチューにした。
凌杏の好物だからね♬*゜
夕飯を終え、お風呂も済ませて
リビングのソファーで
寛いでいる凌杏を僕から誘った。
『凌杏、ベッドに行こう?』
あのことを話さないきゃね……
『珍しいことも
あったものですね』
読んでいた本に栞を挟み
ソファーに置くと立ち上がり
僕の手を掴むと寝室へ向かった。
『あ、あのね……見えるかな?』
いざ、話すとなると
やっぱり、緊張する。
緊張しながらも
僕は凌杏の目の前で
下を全て脱いで
ベッドにねっころがり、
そして、“そこ”が見えるように
足を開いた……//////
『心綺人、あなた
両性具有だったのですか……』
僕は首肯だけで応えた。
どれくらい、そうしてたか
分からないけど、
長い間見られているせいか
僕の“そこ”は
触られてもいないのに
感じ過ぎて濡れていた。
『おや、私に
見られているだけで
感じてしまったのですか?(クスッ)』
恥ずかしかったけど
どうにか頷いた。
『触れてもいいですか?』
もう一度頷いた。
『んんっ……』
凌杏の細い指一本でも
痛みを感じた。
『あぁ、すみません
痛いですよね……』
だけど、此処でやめられたくない。
『痛いけど、大丈夫』
指を抜かれそうな雰囲気に
僕は首を横に振った。
*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。
『そろそろ、
挿(い)れても
大丈夫そうですか?』
少しずつ丁寧に
解してくれたとはいえ、
多分、挿(い)れられたら
まだ痛いと思うけど、
初めては男女関係なく痛いものだ。
『挿(い)れて♡♡』
それでも、凌杏のが欲しいと思った。
『ゆっくりシますけど
痛かったら言ってくださいね』
僕が頷いたのを確認してから
凌杏のモノが挿入(はい)って来た。
『~~っ‼』
最初は痛いのと気持ちいいのが
入り交じった何とも言えない
感覚に陥っていたけど
慣れてくると段々、
気持ちよくなっていた。
『ぁん…… はぁぁ~ん……』
初めてだから
気持ちよくなって来たとはいえ
やっぱり痛みもあって、
僕の表情(かお)を見て
先程の指の時と同じで
抜かれそうな雰囲気に
首を横に振った。
『全部、中に頂戴……』
一回じゃ妊娠しないと思うけど
全部、僕の中に出してほしいと思った。
『あなたがお望みなら
妊娠するまで出してあげましょう』
ニヤリと嗤った凌杏は凄かった(苦笑)
『はぁ~ん、イく、イっちゃうの~‼』
“こっち”で誰かにイかされるのは
初めてで頭の中が一瞬、真っ白になり
普段なら絶対に出ない声と言葉が出た。
あれ? 生理遅れてる?
それに、最近
あまり食欲がないし
すぐに疲れてしまう。
僕は仕事の帰りに薬局に寄った。
“アレ”を買うために……
きちんと病院に行かないと
分からないけど、結果は“陽性”。
*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。
「話ってなんだ?」
嫌がらせされているのを
見つかってから何かと
心配してくれる夜野田先生に
話しがあるからと家に呼んだ。
『僕が学校で嫌がらせ
されているのは知っていますよね?』
あの二人もバレないように
やっているが偶々、あの時は
夜野田先生に見つかった。
「あぁ、知っている。
まさか、あれ以上の
嫌がらせをされたのか⁉」
あぁ、心配をかけてしまった(苦笑)
『いえ、あれ以上の
ことはされてないです。
今日はちょっと違う話を』
僕は全て話した。
★凌杏との関係。
★《両性具有》で
現在妊娠中なこと。
「妊娠しているなら
色々と大変だろう。
向瀬先生に全部ちゃんと話なせ」
“全部”には嫌がらせのことも
含まれているんだよね?
「妊娠のことはともかく
嫌がらせのことは
言いにくいだろうけど、
もう、一人の
身体じゃないんだからな」
そうだ。
僕のお腹には赤ちゃんがいる。
「一人で言いにくいなら
俺も一緒に居るから」
実父より父親みたいだ……
『ありがとうございます。
夜野田先生は僕の
“お父さん”みたいです』
思ったことが
そのまま言葉として出てしまった。
『一つ、訊いていいですか?
僕が妊娠してるって
言っても驚かなかったですよね?』
そう、さっき感じた
小さな違和感。
「昔の恋人が
両性具有だったからな」
今、サラッと凄いこと言ったよね……
「今は親友だ」
そうなんだ。
「その子が生まれたら
二人にあいつを紹介しよう。
それと、俺のこと
【父さん】と呼んでもいいんだぞ?」
さっき、
あんなこと言ったから(苦笑)
「向瀬先生には
【父さま】と呼ばせてみるかな(笑)」
夜野田先生は楽しそうに言った。
『【父さん】』
何となく呼んでみた。
実父とは小さい頃から
殆ど話さないから
あまり父親だと思っていない。
「俺は【心綺】って呼ぶかな」
新鮮な響きだ。
『じゃぁ、凌杏のことは
【りあ】とかどうですか?』
今此処にいない恋人の呼び方を
勝手に決めてみる。
「いいなそれ♬*゜
一つ言い忘れてたが、敬語はなしだ」
プライベートだし、【父さん】と
呼ぶならそうなるよね。
『わかった』
この後、凌杏を呼び、
“全部”話した。
夜野田先生改めて【父さん】は
僕を【心綺】、
凌杏を【りあ】と呼び
凌杏は【雅和さん】と呼んだ。
流石に【父さま】は
恥ずかしかったみたいだ。
『あなたが嫌がらせ
されていたとは全くもって
知りませんでしたよ‼』
その後続いた言葉は……
“私がその場にいたら
病院送りにしてやったのに”だった。
その呟きを聞いた【父さん】は
「そうだろな」と頷いた。
付き合いの長い僕は
凌杏の目を見て思った。
あの状況を見たら、
多分、いや、確実に
“病院送り”程度じゃ
済まなかっただろうなと(苦笑)
*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。
週明け、
何時もの嫌がらせが始まっていた。
僕や【父さん】より先に来て
英語教官室に入り、
主にその日の授業で使う
教材や教科書を隠される。
まぁ幸い、記憶力はいいから
なくても支障はない。
問題は“暴力”の方。
僕のお腹には
凌杏との子がいる。
【父さん】のいう通り
僕一人の身体じゃない。
『今日も教材なしか。
後で探さなきゃ……』
「また、隠されたのか」
少し遅れて入って来た
【父さん】に聞かれてしまった。
そんなに話しをしていると
教官室のドアがノックされた。
朝から誰だろう?
『どうぞ』
僕が返事すると
ドアを開けて入って来たのは
二年生の雪原彩月さんだった。
「夜野田先生・寿々崎先生
おはようございます。
教官室に来て早々
申し訳ないのですが
緊急事態なので
携帯を使う許可をください」
普段、真面目な雪原さんが?
「まぁ俺達しかいないからな
今日だけ特別許可してやろう」
【父さん】が許した。
「ありがとうございます」
僕達にお辞儀をすると
雪原さんはスカートのポケットから
可愛らしいカバーがかかった
スマホを取り出して電話をかけ始めた。
「《おはよう、
実は、小坂と多々羅が
ヘドが出そうなことを
話してるのを
聞いちゃったから
報告をと思ってさ》」
二人の名前が出てきて驚いた。
しかも、あの真面目な雪原さんが
仮にも教師二人を呼び捨て……
内容は小声だったから
聞こえなかった。
「《わかった、此処にいる》」
通話を終え、スマホをしまう。
「ありがとうございました。
向瀬先生が今から、
こちらに来ますよ」
電話の相手は凌杏⁉
数分後、凌杏が血相を変えて
英語教官室に来た。
『彩月さん、
電話ありがとうございます』
名前呼び⁉
「り―君遅い‼」
雪原さんも⁉
この二人、何時仲良くなったの?
『これでも、
五階から急いで来たんですよ。
彩月さんなら私が昔から、
体力ないのをご存知でしょう?』
「そうだったね。
さっきの事だけど、
当人がいる前で話すの?」
今日三度目の吃驚。
雪原さんがタメ口……
『そうしないと
対処できないじゃありませんか』
何の話?
僕達を完全に忘れて
二人だけで話しが進んでいる。
「物凄く不愉快で
非常に
申し上げ難いのですが
寿々崎先生の安全上、
報告させて頂きます。
あの二人は寿々崎先生を
犯そうとしています」
えぇぇぇぇ⁉
「そいつは確かに
不愉快だし
穏やかじゃないな」
【父さん】は眉間にシワを寄せた。
僕は驚き過ぎて
言葉が出てこない……
『彩月さん、あれ持ってますか?』
「勿論*♬೨
寿々崎先生に渡せばいい?」
何を?
「護身用にこちらをどうぞ」
スマホを取り出たのとは
反対側のポケットから出したのは
折り畳みナイフ。
『やはり持ってましたね(笑)
桜祈なら
持たせてると思ったんですよ』
“桜祈”?
「あの人は両親以上に
私を愛してくれてるからね(笑)」
とりあえず、差し出された
折り畳みナイフを受け取った。
『二人はどういう関係?』
気になって、思わず訊いてしまった。
『すみません、
説明してませんでしたね。
彩月さんは友人の姪で
彼女が生まれた時から知っています。
その友人が先程、
名前を出した“桜祈”で
護身用に折り畳みナイフを
持たせてる
彼女の叔父のですよ』
小さい頃から知っているから
名前で呼んでるのか……
「さっくんは本当に心配性だよね」
『彼は生涯、
自分の子を持つことはないですから
彩月さんのことが
可愛くてしょうがないんですよ』
話しぶりからすると
彼はゲイなのかな?
『さてと、あの二人には
私の実験に
付き合っていただきましょうか(ニヤリ)』
凌杏は口は笑っているのに
目が全く笑っていない……
「廃人にならない程度にね(笑)」
慣れているのか雪原さんは
そんな凌杏を見ても動じていない。
『そんな怪しい{薬}じゃないです。
ちょっとした媚薬ですよ(クスッ)』
余談だけど、呼び方は
雪原さんは僕を【みき君】
僕が雪原さんを【彩月ちゃん】
と呼ぶことになった。
*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。
**二日後**
一昨日は教材を隠された以外は
何も起こらずに過ぎた。
凌杏や【父さん】が
担当クラスまで一緒に来てくれたり
終わったら迎えに来てくれたから。
そして、昨日は凌杏が
科学準備室に二人を呼び
例の媚薬を作って
飲ませたらしい。
『見物でしたよ(ニヤリ)
今後、
心綺人に嫌がらせや
脅し等をしたら私の実験台に
なってもらいますと告げたので
これに懲りて、
手出ししてこないでしょう(๑^ ^๑)』
だから、今日は久しぶりに
教材や教科書が揃っているわけだ。
『凌杏、ありがとう』
此処は英語教官室だから
抱きつきたい衝動を抑え
お礼だけ告げた。
『家族を守るのは当たり前です』
僕はお腹に手をあてて小さく微笑んだ。
あれから月日は経ち、
季節は秋から冬になった。
『同窓会か……
どうするかなぁ……』
はっきり言って、
僕は乗り気じゃない。
『何がです?』
僕は手に持っている
同窓会のお知らせを
掲げて見せた。
親しい友人はいたけど
身体のこともあり
遊びの誘いも断っていた。
それでイジメにあったこともある。
唯一、救いだったのは
共学だったこと。
『私が同伴したら行きますか?』
まぁ、同伴者可とは書いてある。
『凌杏はそんなに僕に
同窓会に行ってほしいのかい?』
『いえ、
どちらかと言いますと
私があなたの学生時代に
興味があるのですよ』
そういうことか(苦笑)
『わかったよ、一緒に行こう』
*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。
**当日**
『段差、気を付けてくださいね』
凌杏は妊娠してから過保護になった(笑)
『大丈夫だよ、学校でだって
階段を上り下りしていたじゃないか』
うん?
そういういえば、校内では
あまりに過保護にならないな。
『校内は見取り図を
把握してますし、
うちは私立で無駄に
広いですから
エレベーターもありますので
安全面では心配してません』
確かにエレベーターを
使う頻度は増えたかな。
そんなことを考えていたら
後ろから声をかけられた。
「心綺人か?」
声の主は直ぐにわかった。
『廉耶、久しぶり』
振り返りながら
久しぶりに会う友人の名を呼んだ。
手は凌杏と繋いだままだけどね。
廉耶は僕のお腹を見て
目を見開いている。
十数年ぶりに会った
男友達が妊娠してたら
普通、吃驚するよね。
『吃驚しただろう(苦笑)
隣にいるのが
僕の旦那さんで
お腹の子の父親だよ』
凌杏に甘える仕草をしながら告げる。
『初めまして、
向瀬凌杏と申します』
律儀に自己紹介している。
「初めまして、花咲廉耶です」
続けて廉耶が自己紹介した。
『私は、年下ですので
心綺人と話す時のように
話していただければと思います』
三人で話しながら
会場になっている八階に
行くためにエレベーターに乗った。
*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。
「先生のところに
挨拶に行こうぜ」
廉耶は少し先に雲川先生を
見つけたらしく、そんなことを言った。
僕も挨拶には行きたいけど
凌杏から離れたくない。
そんな僕の気持ちを察したらしい。
「三人で行けばいいだろう?」
本当に昔から人の気持ちを
察するのが上手いよな。
『凌杏、一緒に来てくれる?』
自分は部外者だから
此処で待ってると言いそうだなぁ。
『えぇ、勿論ですよ』
よかった。
「決まりだな」
僕は凌杏に手を引かれながら
雲川先生のもとまで来た。
「先生、お久しぶりです」
廉耶が声をかけると
気付いた先生が嬉しそうに笑った。
「あら、花咲君と知らない子と
そっちは寿々崎君かしら?」
凌杏の後ろに
隠れるようにしていた僕。
「そうそう、心綺人と旦那さん」
廉耶が勝手に応えた。
「あらまぁ」
『初めまして、
向瀬凌杏と申します』
さっき、入り口で廉耶に
したのと同じ挨拶をしている。
「寿々崎君達の
担任だった
雲川月花咲です」
先生はあの頃から
変わっていない。
『心綺人、私の後ろに
隠れていないできちんと
ご挨拶されてはどうですか?』
年下の凌杏に言われちゃしょうがない。
『お久しぶりです』
凌杏の隣に立ち、挨拶をした。
当然のごとく視線はお腹にいく。
「そのお腹だと色々大変でしょう」
先生は僕が両性具有だと知っている。
『そうですね』
三人の子を産んだ先生は
パワフルだけど可愛らしい人だ。
「でも、よかったわ。
妊娠してるってことは
寿々崎君は彼の子を
産みたいと思ったんでしょ?」
そう、僕は凌杏の子を
産みたいと思った。
『はい』
雲川先生が頭を撫でてくれた。
「困ったことや分からないことが
あったら連絡してね」
鞄からメモ帳とペンを取り出し
連絡先を書いて渡してくれた。
『ありがとうございます』
お辞儀をして先生のもとを
離れて飲み物を取りに
行こうとしたら、久崎が来た……
「げっ」
廉耶が
嫌悪感丸出しの表情(かお)をした。
「さっさと行こうぜ」
飲み物は諦めて入り口に向かう。
僕の妊娠を知られたら
色々、言われるだろうし
面倒なことになるだろうな……
『そうだな』
しかし、
そう上手くはいかなかった。
「花咲・寿々崎、久しぶりだな」
「俺達に何の用だ」
廉耶がイライラしてる。
それもそのはず。
久崎は僕をイジメてたんだから。
『彼は久崎グループの
副社長ですよね?』
小声で凌杏が訊いてきた。
『そうだよ。
高校時代、僕をイジメてた
相手でもあるけどね』
僕も小声で答えた。
『だから、花咲さんは
あんなに嫌そうな表情(かお)を
されているんですね……』
苦笑しながら
凌杏と繋いでる手をギュッと握った。
「そう邪険にするなよ」
久崎は昔から
本当にしつこいんだよな……
「大した用がないなら
俺達は帰るからどけ」
イライラがピークに
なってきたんだろう
廉耶に凌杏が何事かを告げると頷いた。
その直後、凌杏が僕を
背に庇うようなしながら
久崎の横を通り過ぎた。
僕の腕を掴もうとした手を
凌杏が抱き寄せたことでかわせた。
『ありがとう。
廉耶、下で待ってるよ』
何か言いたげな久崎は無視して
同窓会の会場を出た。
*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。
「あの馬鹿のしつこさは
昔から変わってねえな……」
うんざりした
表情(かお)をしながらも
廉耶はわりと早く下りて来た。
『お疲れさん』
ふざけて言うと肩をすくめた。
あの性格でよく、
副社長やれてるような……
『花咲さんはこの後、ご予定は?』
会場となっていた
◆◆ホテルから出たところで
凌杏が廉耶に訊いた。
「特にないな。
妻には遅くなるって言ってあるし」
子育て歴は廉耶の方が先輩だな(苦笑)
『では、我が家へ来ませんか?』
妊娠がわかってから
一緒に住むようになった。
『心綺人は妊娠してますから
何処かお店に入るのは無理ですし
お二人も折角、
再会したのですから
積もる話しもあるでしょう?』
凌杏の思惑はわかった。
「俺は大丈夫だぜ」
タクシーを呼び、家に帰って来た。
最初は廉耶が
高校時代の話しをしたりしていたけど
その内、科学者二人の話しを
僕が聞いていた。
文系の僕にはよく分からない
数式やら、専門用語が
次から次からへと出てくる。
『お茶を淹れてこよう』
話しに夢中な二人を
リビングに残し、キッチンに向かった。
廉耶は泊まっていくことになった。