〈BL〉意地悪ダーリンは年下科学教師

もうすぐ、期末テストに
入ろうとしていた六月下旬に
美卯ちゃんは突然、やってきた。

僕はまだ仕事に復帰してなくて
家にいることが多い。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

チャイムがなり、玄関に行くと
そこにはボロボロな美卯ちゃんが
泣きながら立ったいた。

何があったのだろうか?

いや、美卯ちゃんの
この姿を見ればわかる。

中学校でイジメにあっているのだろう……

小学生の頃より悪化してないか?

また、あの{薬}が
必要になるだろうなぁ……

『いらっしゃい』

リビングに通し、ソファーに座らせ
僕はキッチンでハーブティーを淹れた。

『心綺人君』

この様子だと、また
柊和には言えてないのだろう。

『ゆっくりでいいから
何があったのか話してごらん』

さっき淹れたハーブティーを
美卯ちゃんの前に置いた。

『とりあえず、これ飲みな』

凌杏はまだ仕事中だし
話を聞いてあげられるのは僕だけだ。

「中学校って、
違う学区の子も入ってくるでしょう?

それで、入学式の時にパパが
お仕事で来られなくて
ママだけ来てくれたんだけど、
ママが“男性”だから……」

言いたいことはわかった。

僕達みたいな家族は
他にもいるのにどうして
美卯ちゃんばかり
辛い目に遭わなきゃいけないんだ。

善哉家は後三人子供がいる……

下の三人はどうしてくか
僕は見守っいきたいと思った。

『夢卯君と
月卯ちゃんは大丈夫そう?』

美卯ちゃんが
卒業してしまった今、
小学校には双子の二人しかいない。

「二人は大丈夫だと思う。

ママが“男性”ってことが
普通じゃないことを理解してないから……

私も家では不安感を極力
出さないようにしてたけど
“これ”は
誤魔化せないから此処に来たんだ」

確かに、此処までボロボロの姿で
家に帰ったら柊和は訊きたがるだろう。

「心綺人君に二つお願いがあるの」

なんだろう?

「一つはギュッてしてほしいのと
もう一つは此処に泊めて欲しい……」

なんだ、そんな事(苦笑)

『勿論、両方いいけど
お泊まりの方は柊和に
何て説明するの?』

抱き締めるのは今此処でできる。

だけど、お泊まりは
夏休みに入ってからなら
柊和も何も言わないだろうけど
まだ、学校がある今は
帰ってこいと言うだろう。

『わかった。

僕が上手い理由を考えてあげる』

状況は違うけど
イジメにあっていた経験はある。

久崎と遊ぶのを断ったら
翌日からあいつのグループから
嫌がらせされるようになり
一週間後にはイジメに変わった。

「本当に?」

不安そうな美卯ちゃんに頷いた。

『うん』

泊めるのはいいんだけど
一つ問題がある。

『お着替え、どうしようか?』

生憎、うちには下着も服も
当然、男物しかない。

幸い、制服は破れてなさそうだけど
買いに行くにしても
この格好では外に出られない。

『ねぇ美卯ちゃん、
下着とお洋服のサイズと
好きな色とかデザイン
教えてくれる?

お留守番しててくれたら
僕が今から買ってくるよ』

“普通”の家庭なら
男親にあたる僕に女の子が
下着のサイズなんて
教えたくないだろうなぁ(笑)

「いいの?」

僕に買いにいかせるっていうのと
お金のことを心配してるのかな(苦笑)

『勿論。

何も心配しなくていいんだよ』

一つ目のお願いを叶えて
ギュッと抱き締めた。

美卯ちゃんはまだ中学生だし
ちょっと頑張り過ぎな
ところがあるから
たまには、頼ってほしい。

「お願いしてもいい……?」

頼られて嬉しい。

『わかった(ニコッ)

行ってくるから
好きに寛いでてね。

それと、心咲は当分
起きないと思うけど
起きちゃったら
面倒見ててくれるかな?』

「任せといて、
心咲ちゃんが起きたら
ちゃんと面倒は見ておくから」

色々な物の場所を説明し、
あの格好のままじゃ
疲れるだろうと思い、
凌杏のシャツを一枚借りて
美卯ちゃんに着せた。

やはり、中学生の美卯ちゃんには
身長が低い凌杏のシャツでも
ワンピース状態になり引き摺っているから
裾をヘアゴムで縛ってあげた。

「ありがとう」

お留守番を美卯ちゃんに
頼んで家を出た。

一応、凌杏にメールをしておこう。

『《美卯ちゃんが来てるよ。

買い物中だから、僕より
先に家に着いたら話してあげてね》』

これでよし。

序でに、夕飯の買い物もして帰ろう。
僕が家に着いても
凌杏はまだ帰って来ていなかった。

『美卯ちゃん、ただいま』

今から洗濯して乾燥すれば
夜には着られるだろう。

「お帰り。

心咲ちゃんは起きなかったよ」

二時間くらい出てたのに
起きなかったのか。

『お留守番、ありがとね』

さて、柊和に電話しなくちゃな。

『美卯ちゃん、
ママに電話してくるね』

今頃、学校から
帰って来ない美卯ちゃんを
心配してるだろうから。

『《もしもし、僕だけど》』

柊和は意外と
直ぐに電話に出た。

「《心綺人?》」

不思議そうな声音で呼ばれた。

それもそうだろう、
本当なら僕から電話が来る
予定なんてなかったんだから。

『《美卯ちゃんが
帰って来ない上に
連絡が取れないから
心配してるじゃないかと思ってね》』

あの姿と精神状態では
当然、柊和に連絡する
余裕はなかったはず。

「《何で、心綺人が
それを知ってるんだ?》」

本当のことは言わない約束だからね。

『《学校帰りに心咲に会いに
寄ってくれたんだけど
慣れない学校生活で疲れたのか
僕と話してる途中で寝ちゃったから
起こすのは可哀想だし、
泊めようと思って電話したんだよ》』

嘘も方便。

美卯ちゃんのためにも
少しの嘘は許してもらおう。

「《そうなのか……》」

『《本当は長居するつもりは
なかったみたいで帰り際に
連絡するって言ってたんだけど
寝ちゃったから、僕が代わりに
連絡をいれさしてもらったよ》』

本当は起きてるし、
イジメのことを言えないからだけど
寝ちゃったってことにすれば
柊和も納得するだろう。

「《わかった……

悪いけど、泊めてやって》」

ほら、納得した上に
お泊まりの許可もでた。

『《わかった、
美卯ちゃんをお預かりします》』

最後だけわざと
かしこまって言ってみた(笑)

「《よろしくお願いいたします》」

柊和もかしこまって言った。

幸いなことに明日は土曜日。

外傷はなかったから
制服を汚されただけだろけど
精神的にはかなり参ってるに違いない。

『《じゃぁ、美卯ちゃんが
帰る時にまた連絡するよ》』

それだけ言って
電話を切った。

『お泊まりの許可が出たから
ゆっくり休んでてね。

僕は夕飯の支度をしちゃうから』

これで、とりあえず大丈夫だ。

『ただいま帰りました』

それから、二時間後に
凌杏は帰って来た。

『お帰り、凌杏』

「凌杏君、お帰り」

リビングに来た凌杏に
二人でお帰りと言った。

『おや?

心綺人、女の子に
なんて格好をさせてるのですか』

確かに、スカートが短いのと
シャツ一枚をワンピース代わりに
しているのじゃ
同じ短さでも少し違って見える。

『ちょっとあってね(苦笑)

美卯ちゃんは今日、
お泊まりするから
洋服とか色々、
買って来たんだけど
まだ、乾燥機の中だから
凌杏のシャツを一枚着せたのさ』

さてと、乾燥機は
後、どれくらいで終わるかな。

『私のシャツを着せるの構いませが……』

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

夕飯後、美卯ちゃんは
僕に話してくれたのと
同じ事を話した。

『それは……』

珍しく凌杏がキレている。

僕の嫌がらせの時以来だな(苦笑)

「り、凌杏君……?」

美卯ちゃんは初めて見たんだろう。

凌杏は普段、優しくて
物静かとはいかないけど(苦笑)
めったにキレない。

生徒達とも友達のような関係を築き
古参の教師達から“なってない”
なんて言われているけど
それだけ、凌杏が生徒達に
好かれている証拠だ。

例外は
“大切な人が傷つけられた時”。

元担任の娘だし
それこそ、
彩月ちゃんと同じように
生まれた時から
知っているんだろうから
イジメにあってるなんて
知ったらキレるだろうね。

『先生達には
知られたくないんですよね?』

美卯ちゃんが頷いた。

そりゃそうだ……

僕の場合、“男”だし
“高校生”だったのもあって
最初は言えなかった。

だけど、母さんは
初めて生理になった時と同じように
優しく抱き締めてくれた。

『いいですか美卯さん、
そういう連中には
口で何を言っても無駄ですから
期末テストで
学年で一番を取るのです。

勉強が出来る相手には
何も言えないのが
小・中学生のルールです』

それは一理あるかも。

「英語教えてくれる?」

おや、僕の出番だね♬*゜

『勿論(๑•᎑•๑)

僕は英語教師だもの
美卯ちゃんが
わかるまで教えてあげるよ。

テスト範囲表と教科書と
ノートを出してごらん』

こうして、
期末テストの勉強をすることになった。

英語だけじゃなく
文系の教科全般を僕が
一つ一つ教えてあげた。

理数系はやっぱり
得意みたいで、だけど
わからない所は
凌杏に聞いていた。
翌朝、ご飯の用意をしていると
僕が昨日、買って来た服に
着替えた美卯ちゃんがリビングに来た。

「心綺人君、おはよう」

まだ、眠そうな目を擦っている。

『おはよう、よく眠れた?』

あんなことが
あった後だから心配だ。

「うん、寝過ぎちゃった。

それから、お洋服ありがとう」

それくらいの方がいい。

『いいんだよ*♬೨

凌杏が洗面所にいるから
美卯ちゃんも顔を洗っておいで』

テーブルに三人分の
朝食を並べていると
二人が洗面所から戻って来た。

「美味しそう.。.:*✧」

笑ってくれてよかった(ホッ)

『沢山、食べてね』

心咲のミルクは
美卯ちゃんが起きてくる前に
飲ましたから、今は寝ている。

「いただきます」

食欲もあるみたいだし
一安心かなぁ。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

朝食の片付けや
昼食の用意などを
美卯ちゃんは色々手伝ってくれた。

助かるし嬉しいけれど、
此処にいる二日間くらいは
子供らしくいてほしいと思った。

『美卯ちゃん、
のんびりしてていいんだよ』

多分、家では率先して
手伝いをしているのだろう。

「でも……」

兄弟の一番上だから
自分がしっかりしなきゃと
無意識に身体が
動いてしまうのだろうね。

『そうですよ、美卯さん』

書斎で持ち帰りの仕事を
終えたらしい凌杏が
リビングに戻ってきた。

「凌杏君……」

考えていることが同じでよかった。

『手伝って頂けるのは
心綺人も助かりますし
嬉しいでしょうけど、
此処にいる間は
ゆっくりしていていいんですよ』

やっぱり、
僕達は似た者夫婦だね(笑)

『ちょっと待っててください』

何かを思い付いた凌杏は
再び書斎に行き、すぐに戻って来た。

その手には一冊の本がある。

『これでも読んでてください』

タイトルを見ても僕にはわからなかった。

「え⁉
凌杏君、これ……」

その本を受け取ると
美卯ちゃんの目が輝いた。

『そうです、彼の新作ですよ』

二人は共通で
好きな作家さんがいるんだね。

『差し上げます』

おや、もう一冊あるのかな?

「凌杏君はもう読んだの?」

美卯ちゃんもそう訊いたものの
気付いているだろう。

本は明らかに新品だ。

僕達が疑問に思っていると
凌杏は予想の斜め上をいく
爆弾発言をした‼

『いえ、ですが、彼に頼めば
送ってくれるでしょうから』

え? どういう事?

「知り合いなの?」

うん、美卯ちゃんの質問は正しい。

『えぇ、友人の兄ですから』

凌杏はサラッと二度目の爆弾を落とした。

僕達の驚きも
何処吹く風といった感じで
電話をし出した。

『〈お久しぶりです。

例の新刊、一冊送って頂けませんか?〉』

『〈買ったんですけど
あなたのファンの方にあげてしまったので〉』

察するに
今美卯ちゃんにあげた本を
買った時にその旨を伝えていたのだろう。

『〈今からですか?

わかりました、引っ越したので
◆◆駅で待ち合わせしましょう〉』

ため息を吐いて電話を切った。

『すみません、心綺人、
彼を迎えに行って来ます』

お財布とスマホを
ポケットに入れ玄関に向かった。

『気を付けてね。

お茶の用意して待ってるから』

◆◆駅は家からそんなに遠くない。

歩いて二十分くらいだ。

『ありがとうございます。

あなたは本当にいい奥さんですね』

玄関を開ける前にキスをしてくれた。

凌杏の友人の兄で
作家だという彼は
わりと気さくな人だった。

歳は僕の一つ上らしい。

挨拶は軽く済ませた。

泊まりに来てた
美卯ちゃんにも優しく接し
凌杏があげた本にサインを
してあげていた。

美卯ちゃんが
寝た後のその日の夜。。。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

『遊羽は元気ですか?』

状況からして
彼の弟で凌杏の
友人のことだろう。

「変わらず元気さ。

凌杏が結婚して
父親になったなんて
知ったらあいつは吃驚するだろな……

しかも、相手は同性だしな」

最後の言葉にビクッと
肩が小さく跳ねた……

最初に挨拶した時も
今の台詞にも嫌悪感は
ないのはわかっているけど
マイノリティな僕達の結婚は
後ろめたさが付きまとう……

『でしょうね(クスッ)

私達が中学の頃、大人になって
一番最初に結婚するのは誰かって
三人で話していたのを覚えてますか?

ん? 心綺人?』

話していたのに僕の
小さな異変に気付いてくれたらしい。

『なんでも『なくないですよね』』

珍しく、途中で遮られた。

『心綺人、
結婚する時に言ったはずですよ。

何かあるなら
隠さずに言ってくださいと』

確かに約束した。

『それとも、
今、此処で彼の前で
躯に聞いてもいいんですよ?(ニヤリ)』

耳元で囁かれた言葉に
僕は俯いていた顔を上げた。

『凌杏⁉』

実際にはしないのは
わかってるけど
一瞬、怖いと思ってしました……

『冗談ですよ(笑)

あなたのあんな可愛らしい姿は
誰にも見せるつもりはありませんから』

本当に、
こういう時は意地悪なんだから……

『大丈夫ですよ。

あなたと心咲は
何があっても私が守りますから』

そして、勘がいい。

「あ、悪い」

僕達の雰囲気から
彼がさっきの自分が言った台詞を
思い出して謝って来た。

『いえ、僕が勝手に
不安になってしまっただけなので
気にしないでください(苦笑)』

凌杏に抱きしめられて
僕の心は落ち着いた。

結局、朝方まで三人で話した。

この時はまだ、
あんなことが起きるなんて
思いもしなかった……
美卯ちゃんがお泊まりして
日伝さんが来た日から
二ヶ月経ったある日、
夕飯の支度をしていた僕のスマホに
柊和から電話が来た。

「《心綺人、
落ち着いて聞いてくれ。

凌杏が病院に運ばれた》」

何で……?

僕は危うく、
スマホを落としそうになった。

『《容態は?》』

内心、焦りまくりだけど
凌杏の容態がどうなのか気になる。

「《幸い、意識は
はっきりしてるし、
軽い捻挫と
擦り傷くらいだから大丈夫だ。

ただ、検査入院ってことで
一週間は安静だとさ》」

それくらいでよかった……

『《今から、心咲に着替えさせて
一緒にそっちに向かうよ》』

柊和に病院の場所を聞き、
一旦、電話を切り、心咲を
着替えさせて戸締まりを
確認してから家を出た。

今日は自分で運転して行く。

チャイルドシートに乗せた
心咲は少し走ると眠ってしまった。

病院に着き、心咲を抱っこして
入口に行くと柊和が待っていた。

「心綺人」

凌杏の病室に向かいながら
事の経緯を話してくれた。

「怪我してる凌杏を見つけたのは
俺じゃなくて親父なんだよ」

藍染会長が……

「親父曰く、凌杏は
中年の男と言い争っていて
突き飛ばされた際に
足首の捻挫と膝を擦りむいたらしい」

凌杏が言い争い⁉

はっ‼

思い付くことは一つしかない。

『その、凌杏が言い争ってた
男の特徴とか会長から聞いた?』

普段、おとなしく優しい凌杏が
激昂するとしたら、自惚れでなく
僕達のことに間違いない。

だとすると、凌杏が
言い争ってたっていう男は
十中八九、実父に違いない。

「そういやぁ、
お前に少し似てたとか言ってたな」

やっぱりか……

母さんは話すはずがないから
何処かで僕達を見かけたんだろう。

『それ、僕の実父だ。

あの人は僕達みたいな
人種を嫌っているんだ……

凌杏に合わす顔がないな……』

エレベーターの前まで来て
凌杏の病室に行く勇気が出ない。

心の中で抱いている心咲に謝る。

ごめんね。

パパに怪我させたのは
ママの父親なんだよ……

「あいつの場合、逆に
謝って来るんじゃないか?」

ぅっ、あり得そうだなぁ(苦笑)

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

案の定、柊和の勘は当たった。

凌杏は怪我させられた方なのに
謝って来た。

だけど、僕はその謝罪に
逆キレてしました……

何だか、僕達の関係が
いけないと言われたような
気がしたからだ。

勿論、凌杏はそんな事を
一ミリも思っていないのは
僕自身がよくわかっているけど
何だか悲しくなってしまったんだ……

「此処は病室だ。

少し、落ち着け‼」

柊和に後頭部を叩かれた。

心咲に衝撃が伝わらない程度の
軽いものだったけど。

それを見て、藍染会長は慌てて
凌杏は笑っていた。

『心綺人、
あなたが気に病むことはないんですよ』

穏やかな声色で凌杏が言った。

『私はあなたも心咲も愛しています。

ですから、私に怪我を負わせたのが
あなたの父親だったとしても
気にしていないのですよ』

どうしたらこの聖母のような考え方が
できるようになるのか不思議だ。

「やられた本人は
気にしてねぇんだから
お前も何時までもイライラしたり
凹んだりしてんなよ」

言い方はぶっきらぼうだけど
僕には柊和が励まそうと
してくれているのがわかった。

『そうだね、柊和ありがとう。

遅くなってしまいましたが
藍染会長、凌杏を
助けて頂きありがとうございました』

一番、肝心なことを
忘れるところだった(汗)

「いやいや、凌杏君のことは
昔から知っているから、
あんな場面に出くわせば
助けるのが道理だよ。

それから、俺のことは
名前で読んでくれるとありがたい」

困って、柊和の方を向くと
目でそうしろと言われた(苦笑)

『では柊也さんと呼ばせていただきます』

僕の答えに藍染親子は
満足そうな表情(かお)をして頷いた。
一週間は思いの外、早く過ぎ、
その間に色んな人達が
お見舞いに来てくれた。

『やっと、退院できるね』

今日は心咲を
母さんのところに預けて来た。

「そもそも、一週間なんて
長いくらいでしたからね」

すっかり、捻挫が治った
凌杏の声色と
表情(かお)は
スキップでもしだしそな感じだ(笑)

手続きをすませて入口に向かうと
【父さん】と何故か実父がいた。

「心綺・りあ、迎えに来たぞ」

荷物を僕の手から取って
駐車場の方へ歩き出した。

『【父さん】、それくらい
軽いんだから持てるよ?』

今は妊娠してるわけじゃないし
僕も男なんだから、
入院道具一式入った鞄くらい持てる。

そもそも、持って来たのは僕なんだし。

呼ばれた本人と
凌杏以外の回りにいた人達は
(当然、実父も)驚いて
僕の方を見たけど気にしない。

「俺が持ってやりたい
だけなんだからいいんだよ」

鞄を持ってない方の手で
僕の頭を撫でた。

『雅和さん、
迎えに来てくださって
ありがとうございます』

凌杏の言葉に【父さん】は
僕にしたのと同じように
頭を撫でた。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

『ところで、何しに来たの?』

少し 離れた場所で
僕達のことを見ていた
実父に怒気を含んだ声色で話し掛けた。

『心綺人、そうイライラせずに(๑•᎑•๑)』

怪我させられた本人は冷静だし、
柊和にも言われたから
凹むのはやめたけど
イライラは収まっていない。

「いや、そのだな……」

はっきりしないなぁ‼

『ゆっくりで構いませので
此処に来た理由をお聞かせください』

だから、何で凌杏は……

「あの時はすまなかった」

母さんに説教でもされたのかな……

『大した怪我では
ありませんでしたから大丈夫ですよ』

赦すの⁉

いや、凌杏なら赦すって
わかっていたけどね。

「赦しくれるのか?」

実父もまさか、
赦してもらえるとは
思っていなかったんだろうね。

『ぇぇ、本当に大した
怪我ではありませんでしたから。

それに、心綺人の実の父親ですしね』

果たして、僕が逆の立場だったら
凌杏の実父だからと赦せるだろうか……

少し考えてから思った。

多分、僕も赦すだろう。

こんな考えを柊和が知ったら
似た者夫婦と言われるんだろうなぁ(苦笑)

「本当にすまなかった……

赦してくれて、ありがとう」

凌杏は終始笑顔だ。

「心綺人もすまなかった……」

面と向かって謝られると
言葉に詰まってしまう……

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

「ところで心綺人、彼は誰なんだ?」

僕が【父さん】
と呼んだことに疑問を持ったんだろうね。

『職場の先輩で
僕達の関係を理解してくれてる人だよ』

同性愛も両性具有のことも
理解してくれてる。

「これは
名乗り遅れてすみません。

夜野田雅和と申します」

落ち着いた対応をしている。

「心綺人の実父で
寿々崎卓(まさる)と申します」

凌杏に怪我を負わせた
負い目からなのか
話し方がよそよそしい。

『はぁ~、凌杏が赦すなら
僕は何も言わないさ』

本人が赦しているのに
その後で第三者が
ごちゃごちゃ言っだってしょうがない。

『だけど、僕達の
関係は認めてもらうよ』

そもそもの発端は
僕達の関係にあるわけだけど
夫婦としても心咲の親としても
胸を張って生きている。

「こう言ってはお前は
怒るだろうが、同性同士では
子供はできないだろう?」

やっぱり、そこに焦点がいくんだなぁ。

『普通の夫婦だって子供がいない人は
大勢いるし、欲しくても
できない人だっているんだから
必ずしも子供ができれば
いいって問題じゃないだろう』

幸い、僕は子供が産める身体だけどね。

今朝、母さんに預けて来たばかりなのに
心咲に会いたくなって来たなぁ(苦笑)

「確かにそうだが……」

埒が明かないと判断した僕は
心咲に会いたくなったのもあり
母さんに電話した。

これは話すしかない。

隣にいる凌杏に小声で
その旨を伝えたら頷いてくれた。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

三十分後、母さんが来た。

このメンツを見てため息を吐いた。

僕が【父さん】を慕っていることも
今日、迎えに来てくれることも
事前に話てあった。

実父は母さんが抱いている
赤ん坊を見て目を見開いた。

「はい、心綺人」

僕が抱っこすると心咲は“ママ”と
可愛い声で呼んでくれた。

『心咲は本当にママが大好きですよね』

「私もそう思うわ(๑^ ^๑)」

二人の台詞に
開いた口が塞がらない状態のようだ。

「どういうことだ……?」

放心状態から脱け出したものの
状況を把握できていない。

『二人の言う通り、
僕は心咲の“ママ”なんだ。

つまり、僕が生んだんだよ』

養子じゃない正真正銘、
僕が生んだ凌杏との愛の結晶だ。

何を言えばいいのか
わからなくなったんだろう。

実父は口を開かなくなった。

そんな中で心咲が実父に
抱っこをねだった。

これには僕達も吃驚だ。

「じぃじ、抱っこ」

今度は、はっきりと実父を呼んだ。

僕が差し出すと
恐る恐るといった体で抱いた。

心咲は戸惑っている
僕達を他所に
キャッキャと嬉しそうに笑った。

子供って凄いよね。

大人達の戸惑いとか関係なく
思いのままに行動できるんだから(苦笑)

たまに、僕達大人は難しく
考え過ぎなんじゃないかと
思う時がある。

そして、どんどん可笑しな方へ
向かっていって最後に拗れる。

年をとればとる程
素直になったりできなくなっていく。

小さい頃の無邪気さも素直さも
何時から忘れ、何処に
置いて来てしまうのだろう……

大人になれば、それだけが
通じないのも確かだけど
無くしてはいけない気がする。

心咲を抱っこして
思うところがあったみたいだ。

「お前達の関係を認める……」

これで、とりあえず解決したね(苦笑)

この時から実父も時々、
僕達のマンションに
来るようになったのは余談だ(笑)

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