〈BL〉意地悪ダーリンは年下科学教師

家の中に入り、
手洗い・うがい・着替えを
済ませた凌杏は自室に入り
例の{薬}を探しているみたいだ。

『ねぇ、
それは何の{薬}?』

戻って来た凌杏に訊いた。

『先生ん家の
長女・美卯さん
専用の精神安定剤です』

凌杏の話しによると
柊和の娘・美卯ちゃんは
十二歳でしっかり者だが
ストレスを溜めやすく、
時々軽い鬱になってしまうとのこと。

『今は小学生も鬱に
なるような時代なんだね……』

悲しい世の中だ。

『私達も先生達もそうですが
同性同士の夫婦・両性具有
というのは
世間では理解が
追い付いていません。

そういうのもあって
美卯さんは時々、
軽い鬱になってしまうのです』

僕や柊和や
【父さん】の親友みたいな
所謂〔両性具有〕
と呼ばれる人種はそう多くないし、
世間から見ればまだまだ“特殊”だろう。

人は自分と
違うものを嫌う傾向がある。

特に此処日本はそれが顕著だ。

一番の例は“集団行動”だろう。

特に、小・中学校では
それが試されるから
ちょっとでも違う行動をすると
ハブかれ、イジメられることもある。

美卯ちゃんの場合は
柊和が“母親”なのに“男”だから
その関係で学校で
何か言われているのかも知れない。

下の双子はまだ二年生だと
凌杏が教えてくれた。

二人はまだ、
色々わからない年だろう。

『最初は病院の薬を
飲んでいたんですが
合わなかったようで
すぐに身体が
拒否反応を起こしました。

それで、私が美卯さんの
血液を採取して
身体に合う{薬}を
作ることになったんです』

[これは外部には
漏らさないでくださいね]
と苦笑しながら
凌杏が言った。

いくら、知識があるとはいえ
採血はちょっとヤバいかもね(苦笑)


『勿論、誰にも言わないよ。

第一、{薬}も同じだろう?』

そもそも、
{薬}を作ること自体も
口外できない案件だろう。

『それも、そうですね(苦笑)』

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

例の{薬}の在庫分を
善哉家に届けられたのは
あの日から三日過ぎた夕方だった。

「忙しいのに悪ぃな」

柊和が謝ってきた。

別にいいのに。

「学校に行きたくないって言ってな」

美卯ちゃんは自室に篭っているらしい。

「飯時とかは出て来るんだが
それ以外は篭りっぱなしだ。

俺が理由を訊いても
答えてくれなくてな……」

凌杏のいうように
僕達は“特殊”だからね。

『僕達が話してみてもいいかな?』

“親に言えない気持ち”っていうのは
誰しもあることだと思う。

「頼む……」

僕は母さんがこの身体のことを
気持ち悪いなんて言わずに
色々教えてくれたから
受け入れられた。

『では、美卯さんの
部屋に行きましょう』

凌杏と二人
で美卯ちゃんの部屋に向かった。

ノックしてみる。

「誰?」

中から返ってきた
可愛らしい女の子の声。

『お久しぶりです美卯さん。

凌杏ですが、今日は
あなたに紹介したい人が
いるので連れてきたんですよ』

部屋のドアが少しだけ開いて
その隙間からこちらを
窺うように見ている。

目が合うと凌杏は
もう一度、お久しぶりですと言った。

「後ろにいる人が紹介したい人?」

一瞬だけ僕を見て、
視線を戻しながら
凌杏に訊ねた。

『そうですよ。

私の奥さんで
妊娠六ヶ月です』

「ママと一緒ですね」

もう一度、僕を見て
美卯ちゃんはそう呟いた。

『そうだよ』

目線を合わせながら笑った。

「入りますか?

廊下は寒いので冷えますよ?」

僕が妊夫だとわかって
入れてくれようと思ったらしい。

優しい子なんだな。

部屋のドアを開けて
中に入れてくれた。

『ありがとう』

二人で美卯ちゃんの部屋に
入れてもらい、
ラグが敷いてある床に座った。

『凌杏の妻で
寿々崎心綺人です。よろしくね』

向かいに座った美卯ちゃんに
笑顔で自己紹介した。

「善哉美卯です……

よろしくお願いします」

緊張してるのかな?

『美卯さん、私と話す時と
同じでいいんですよ。

貴女はまだ小学生なんですから』

成る程(苦笑)

『僕もそうしてくれると嬉しいな』

目上の人には敬語で。

だけど、そんなことは
大人になってからでいい。

多分、凌杏と初めて会った時も
美卯ちゃんは
敬語だったのを諭したんだろ。

「本当にいいの?」

うん。こっちの方が
子供らしくていい。

『勿論*♬೨』

「ありがと♡」

可愛いな♬*゜

『早速、本題ですが
最近、学校に
行きたくない理由はなんですか?』

美卯ちゃんに話しを聞いてみると
僕の予想が当たっていた。

“普通”の家庭とは違う僕達。

端から見れば
“父親”が二人に見えなくもない。

だけど、実際には柊和は“母親”だ。

そして、僕も“母親”になる。

『美卯さん、確かに私達は
“普通”のご家庭とは色々違いますが
そもそも、“普通”とは何でしょうか?

貴女が悩む事は何もないのですよ。

そして、周りの言葉など
気にする必要はないのです』

凌杏のいうとには一理ある。

“普通”とは誰の基準なのだろうか?

何が基準なのだろか?

そして、何か
いけないことをしただろうか……?

この可愛らしい小さなお姫様が。

『そうだよ美卯ちゃん、
凌杏のいう通り
周りの言葉なんて
気にしなくていいんだ』

これから生まれてくる
僕達の子供もきっと、
同じようなことを言われるのは
火を見るよりも明らかだ。

だけど、間違っていないと教えたい。

『それから、ママにも話してごらん。

美卯ちゃんが
何も話してくれないと
寂しそうな表情(かお)をしていたよ?』

柊とは会ったのは
二回目だし
結構、口が悪いが
家族をとても愛してるのがわかる。

『そうですよ(ニコリ)

話してあげてください。

{薬}は柊和さんに
預けてありますけど
本当に苦しく
なった時だけ飲んでくださいね?

極力、飲まないのが
一番いいですが……』

あはは(苦笑)

凌杏が自分で
作った{薬}なのに
そんなことを言っている。

まぁ、市販薬にしろ
処方薬にしろ
凌杏の作った{薬}にしろ
そもそも、“薬”は
極力飲まない方がいい……

「うん、頑張って
飲まないようにするね」

笑顔が痛々しい。
「凌杏君、実験室に
心綺人君を案内してあげたら?」

美卯ちゃんが突然言い出した。

「あ、ごめんね……」

そして、謝られた。

うん?

「勝手に名前で呼んじゃって……」

あぁ、それか(苦笑)

『大丈夫だよ。

名前で呼んでくれて嬉しいから』

こんなにしっかりした
小学六年生は中々いないと思う。

友人や親戚の子供が
小学六年生の頃は
生意気だし敬語なんて
使われたためしがない。

おまけに気配りまで
できるのは二人の
育て方がいいのか
環境のせいか……

どっちかじゃなくて両方か(苦笑)

『美卯さんも一緒に行きますか?』

今度は凌杏が美卯ちゃんに訊いた。

「うん‼ 行く‼」

嬉しそうだ。

『では、行きましょか』

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

美卯ちゃんの部屋を出て
二人の案内で実験室に向かった。

中は整理整頓されていて
真ん中にテーブルがあり、
その上にはビーカーやアルコールランプ、
電子顕微鏡などが置いてある。

壁際には洗い場もある。

備え付けの棚には
色々な薬品が並んでいるし
端にはベッドまで置いてある。

そして、かなり広い。

『凄いね』

文系の僕にはわからない
薬品がずらりと並んでいる。

『美卯さん、ストレス発散に
{薬}作りませんか?』

え!?

「いいの?」

美卯ちゃんも理系!?

『今日は私がいますから』

「やった♬*゜」

楽しそうに準備を
始めた美卯ちゃんを
凌杏はニコニコしながら見守っている。

『美卯ちゃんまで
理系とはね……(苦笑)』

僕の呟きが凌杏に
聞こえたらしい。

『両親共に理系ですからね。

父親である先生は
現役の科学教師ですし』

確かに……

上の方にある
薬品は僕や凌杏が
取ってあげた。

三人(ほぼ二人)で
{薬}作りをした後、
片付けて母屋の方へ戻り
リビングに向かった。

「ママ」

リビングの入り口から
美卯ちゃんが柊和を呼んだ。

「美卯‼」

エプロンで手を拭きながら
近づいて来ると美卯ちゃんを
ギュウギュウと抱き締めた。

「あのね、これ、ママに」

スカートのポケットから取り出したのは
今さっき、作っていた{薬}。

見た目は小さい香水瓶のよう。

「心配かけちゃったのと
何時もありがとうのプレゼント」

首を傾げながらその小瓶を
柊和が受け取った。

『美卯さん特製の
疲労回復薬ですよ』

八割方は美卯ちゃんの愛情だ。

「俺の為に作ってくれたのか?」

頷いた美卯ちゃんに
ありがとうなと言って
頭を撫でた。

「なんつうか
流石、俺達の子供だよな」

柊和の言葉に僕と凌杏は笑った。

「二人とも、ありがとうな」

お礼を言われるような
ことはしていない。

『僕達は何もしてないさ』

美卯ちゃんは心配を
かけたくなくて言えなかっただけ。

まぁ、それが逆に
心配をかけてしまったわけだけど……

『私達にしてくれた話を
柊和さんにもしてあげてください』

美卯ちゃんからもらった
{薬}をエプロンのポケットに
仕舞いながら僕達に
座るようにと椅子を
すすめて来たから
ありがたく座ることにした。

美卯ちゃんは少し
緊張した面持ちで
あの話をした。

「気付いてやれなくてごめんな」

謝る柊和に美卯ちゃんは
首を振った。

「違うよママ」

そう、これは
周りが悪いのであって
柊和や美卯ちゃんは
これっぽっちも悪くない。

「それにね、ママのために
{お薬}作ってたら
自然と楽しい気持ちになったんだ」

大好きな人を思いながら
作る物は料理でも{薬}でも
大差ないのだと思う。

大切なのは相手を思う気持ち。

これなら、当分
柊和に渡した
精神安定剤は
飲まなくて済みそうだな。

『私達はそろそろ帰りますね』

美卯ちゃんの悩みも
解決したことだし
僕達にできることは
もうないだろう。

「もう、こんな時間だったんだな。

今日は本当にありがとうな」

だから、僕達は
何もしてないって(苦笑)

『先程、心綺人も言いましたが
私達は美卯さんの話を
聞いただけで、
何もしていませんから。

美卯さん、何かありましたら
何時でもご連絡ください』

美卯ちゃんと柊和に
見送られて善哉家をあとに
しようとした時、凌杏が
叫ぶように言った。

『例の動画は
この間、お見せする時間が
ありませんでしたから
後程、スマホへ送っておきますね』

あぁ、凌杏が例の二人に
媚薬を飲ませた時のやつか……

「あん時はバタバタしてたからな。

わかった、送っといてくれ」

柊和はニヤリと笑っていた。
ちょっと気になる(苦笑)

僕にも見せてくれるかな?

家に着いたら言ってみよう。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

『ねぇ凌杏、例の動画
僕にも見せてくれない?』

夕飯の後、炬燵で
のんびりしている時に
訊いてみた。

『え?

えぇ、構いませんけど……』

何か歯切れが悪いなぁ。

『僕に見せたくない理由でもあるの?』

あの二人だから?

それとも、他の理由が?

『別にお見せしても
構わないのですが
あの二人が自分の意思とは
裏腹に乱れているので
あなたがどう思われるか(苦笑)』

何それ!?

嫌がらせされてたとか
関係なく見てみたい‼

『見たい‼』

凌杏は眉尻を下げ
苦笑すると
僕をパソコンの前に座らせた。

『私の作った媚薬が
強かったということで(苦笑)』

ファイルを開いて再生ボタンを押した。

うん……

あれは凄い……

普段の二人を
知ってる人が見たら
吃驚するだろうね。

二十分程で終わった。

『お分かりいただけましたか?』

本人が自分で言った通り
{薬}の威力は凄かった(苦笑)

ちょっと思ったのは
柊和がこの動画を
何時何処で見るのかってことだ。

当然、子供達の前では見れない。

下手なエロDVDより凄いからな……

『まかさ、此処まで
凄いとはね(苦笑)』

凌杏は少しバツが悪そうに
僕から目を反らした。

これも、一種の才能だよな。

『私のこと嫌いになりましたか?』

視線を合わせないまま訊いて来た。

馬鹿だなぁ、逆だよ。

『そんなわけないじゃないか』

僕の旦那さんは天才だよね(,,• •,,)

凌杏の右手の甲にキスをした。

それは、尊敬の証。

大体、僕はどんな凌杏も愛してる。

『ありがとうございます//////』

そうだ‼

『ねぇ凌杏
あの媚薬、ないの?(ニヤリ)』

今は妊娠中たから無理だけど
出産して、落ち着いたら
僕も飲んでみたい(笑)

『ありますけど……』

眉間にシワが寄る。

言いたいことは
何となくわかったんだろう。

『じゃぁ、この子が生まれたら
僕にも飲ませて欲しいな』

パソコンの椅子から立ち
凌杏の耳元で普段より
低い声で囁く。

『心綺人!?』

それでも、
凌杏は吃驚した声を出した。

『君の作った{薬}で
君の前で乱れる僕を見て欲しい♡♡』

狂ってる?

僕は正気だよ。

『あなた、ご自分が
おっしゃってる意味
わかっていますか!?』

勿論、わかっているさ。

『淫らな僕は見たくない?』

あの動画を見れば
凌杏の作った媚薬が
いかに凄いかわかる。

『いえ、そうではありませんが……』

さっき、動画を見せる前のように
また歯切れが悪い。

『淫らな僕を
君に抱いて欲しいんだけど』

想像しただけで身体が疼く。

『そんなあなたを見れば
泣かれようと嫌と言われようと
私は止まらなくなりますよ?』

好きなだけ抱いて欲しい。

『僕は凌杏のものなんだから
好きにしていいんだよ』

それこそ、僕が壊れるくらい。

『わかりました……

お腹の子が生まれて
落ち着いたらしましょう』

嬉しい♡♡

『うん♬*゜』

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

この話は終わって
僕は凌杏にもう一つ
お願いをした。

『あのね凌杏、
話が変わるんだけど
今度、僕の母さんに
会ってくれない?』

実父はできれば会いたくない。

『“ご両親”ではなく“お母様”ですか?』

そっか、話してなかったっけ。

『うん、母さんだけ。

実父とは会いたくないんだよ……

同性愛や両性具有に対して
偏見を持ってる側だからね』

この身体を見て何を
言われるかわかったもんじゃない。

『わかりました。

息子を妊娠させといて
今までご挨拶に
伺っていなかったのは
社会人として
非常識でしたね……

お母様のご都合を
訊いておいてください』
母さんの都合というよりは
凌杏の仕事の都合と
実父がいない日という
条件の下
再来週の土曜日になった。

僕は産休中だから
主夫業に徹してる。

料理は母さん直伝だ。

そのお陰で
凌杏に美味しいご飯を
作ってあげられることが嬉しい。

お腹の子は女の子らしいから
ピンクや白中心の服がいいかな?

でも、最近は男女問わず
好きな色を
着せる人もいるよね?

難しいなぁ。

二人にも
訊いてみなきゃね。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

二週間が長かった。

『やっと、あなたの
お母様にお会いできますね』

凌杏は僕が作った
ケーキが入った紙袋を持っている。

『そうだね』

家を出る前に古門さんに
電話をしたから
もうすぐ来るだろう。

『心綺人、来ましたよ』

早いなぁ。

「何時もありがとうございます」

古門さんは僕達が
出かける時に何時も
来てもらうタクシーの運転手さんだ。

『こちらこそ、
何時もありがとうございます』

妊夫の僕を何かと
心配してくれるいい人だ。

「今日はどちらまで?」

A市と行き先を告げた。

「遠出ですね」

そう、僕達が住む町から
実家のあるA市は
車で二時間くらいかかる。

『僕の実家に行くんです』

「妊娠の報告ですね」

目的を当てられた。

『そうなんです。

妊娠から半年以上も経ってから
報告に行くというのも
少々、緊張するんですけどね……』

忙しいからと
理由をつけて
先延ばしにしていた。

「きっとお母様は
喜んでくれますよ。

私も娘が妊娠の報告に
帰って来た時は
最初は驚きましたけど
やっぱり、嬉しかったですから」

そういうものなのか?

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

話ている内に着いたらしい。

『帰りもお願いします』

僕を先に降ろし、
ドアを閉める前に
凌杏が言った。

「勿論ですよ。

電話、待ってますね」

そう言って、古門さんは
会社に戻って行った。

チャイムを鳴らすと
母さんが玄関を開けて
くれたのはよかったが
直ぐに視線は
僕のお腹へと向く(苦笑)

大切な人を連れて行くことと
報告したいことがあるとは
言ったが、妊娠のことは
話していなかった。

同窓会の時と同じで
凌杏と手を繋いだままだ。

『初めまして、向瀬凌杏と申します』

手は繋いだまま挨拶している。

「初めまして、
心綺人の母で寿々崎愛桜です」

一旦、僕のお腹から
視線を外し、凌杏と目を合わせた。

「二人とも寒いから
とりあえず、入りなさい」

凌杏を洗面所に案内し、
二人で手洗い・うがいをした。

「母さん、その紙袋の中に
ケーキが入ってるから
切り分けてくれるかな?」

リビングに戻り、
母さんに頼んで
僕は凌杏と一緒に
ソファーに座った。

「はい、お待たせ」

母さんは切り分けたケーキと
三人分の飲み物を
お盆に乗せて来た。

「心綺人はホットミルクね。

凌杏君は紅茶で大丈夫だったかしら?」

『はい大丈夫です』

ニッコリと笑って凌杏は応えた。

「報告したいことって
“妊娠”のことだったのね」

紅茶を飲みながら訊いて来た。

『そうだよ。

だから、あの人が
いない日に来たんだから』

会いたくないし
顔も見たくない。

「六ヶ月ってとこかしら?」

流石母親だなぁ。

『うん。 女の子だよ』

美卯ちゃんみたいな
優しい子に育ってくれるといいな。

「あら、性別聞いたのね」

生まれてからの
楽しみでもよかったけど
洋服とか選びたかったからね。

『性別を聞いていたなら
教えてくださればよかったのに』

凌杏にも言ってなかったからね(クスッ)

『ごめんごめん』

笑いながら謝る僕に凌杏は
しょうがない人ですねと言いい、
教えてくれなかった罰ですと
隣に座っている僕を抱き締めて来た。

「仲良しなのね。

ところで、二人は
何処で出会ったの?」

母さんは母さんで
僕達のやり取りを見て笑っている。

『職場だよ。

凌杏は科学教師なんだ』

{薬}も作っちゃう天才。

『告白は私からでしたね』

当時を思い出したのか
凌杏はちょっと苦笑した。

『そっか、今の凌杏の年が
あの当時の僕の年なんだね……

そう考えると、三年経つのも早いなぁ』

付き合い出した頃は
こうなるなんて
想像すらしてなかった(笑)

『そうですね。

私がいい父親になれるか
わかりませんが心綺人は
いい母親になるでしょうね(๑^ ^๑)』

僕は逆だと思うけどね(苦笑)

「あら、二人ともいい親になれるわよ」

二人でお互いを誉めていたら
(僕は口に出してないけど……)
母さんが言った。

『ありがとうございます』

嬉しそうな、照れたような
表情(かお)で凌杏が
お礼の言葉を言った。

律儀というかなんというか。

「凌杏君の
お家には挨拶に行った?」

母さんのもっともな質問に
さっきとは別の意味の
苦笑を浮かべて
凌杏が答えた。

『いえ、まだなんです。

父親は基本的
家庭のことに関しても
私のことに関しても
とにかく無関心で
生まれた当時は知りませんが
物心つく頃には
話しかけてくることは
ありませんでした。

学費などは出してくれましたし
虐待などはありませんでしたが
ろくに話したことがありません……

母親は普通の専業主婦ですが
妻が男性ということには
多少、驚くでしょね(苦笑)』

初めて聞いた凌杏の家庭事情。

『ですから、心綺人にも母親にだけ
会ってもらうことになりますね』

僕とは違った意味で
父親との仲がよくないみたいだ。

『そっか、わかった』

僕も凌杏も
父親には恵まれなかったみたいだ。

夕方になり、古門さんに
電話して来てもらい
僕の実家を後にした。

母さんは何時でも来ていいと
言ってくれたから
また、実父がいない日を
訊いて二人で行こうと思う。
僕の実家に行った日が
十二月の終わりだった。

お腹の子は時折、
胎動を感じ元気だ。

クリスマスも正月も過ぎ
一月も半ばになり
三年生は自由登校になった。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

二月になり、
凌杏の実家に行く日が決まった。

『今日はM町までお願いします』

今回も古門さんに
来てもらい、凌杏の実家に向かう。

「今日は近場ですね」

そう、凌杏の実家は
意外な程近かった。

お互い、実家の話をしたのは
今回が初めてだったから
どの辺なのかは知らなかった。

『はい、今日は
私の実家に行くんです』

「そうなんですね(๑^ ^๑)」

三十分程でM町についた。

「私は社に戻りますから
帰りの際は電話してくださいね」

古門さんの台詞に
何時も通りの返事をした。

凌杏は玄関の鍵を開けて
普通に入った。

『心綺人、どうぞ』

僕の手を引いて
洗面所らしき場所に
連れて来てた。

『お母さん、ただいまです』

それから、
リビングらしきドアを開けて
中に声をかけた。

「お帰り、久しぶりね

あら、そちらが?」

僕はお辞儀をした。

『初めまして、
寿々崎心綺人と申します』

手に持っていた紙袋を渡した。

「あら、何かしら?」

『心綺人がフルーツタルトを
焼いてくれたんですよ』

すかさず、凌杏が説明した。

「わざわざ、ありがとうね(๐•ω•๐)

二人とも、座って待っててちょうだい」

僕から紙袋を受け取ると
凌杏の母親はキッチンの方へ。

「お待たせ、心綺人君は
お料理が上手なのね(๑•᎑•๑)」

人並みにはできるけど
果たして、“上手”の部類に入るのかな?

凌杏は何時も
“美味しい”って言ってくれるけどね。

『そうなんです、お母さん‼

心綺人のご飯を食べたら
外食なんてできません』

ぇ!?

まさか、凌杏がそんな事、
思ってたなんて知らなかった(苦笑)

「この子が此処まで言うってことは
本当に心綺人君はお料理上手なのね」

確かに、凌杏は食が細い。

その華奢な身体の何処に
あんな体力と精神力が
あるのか不思議だ。

「心綺人君は妊夫さんなのね(๐•ω•๐)

この子は優しい?」

僕は首を傾げる。

『お母さん、
なんて質問してるんですか(焦/汗)』

こんな慌ててる凌杏は
初めてみるかも(笑)

『優しいですよ(๑^ ^๑)

僕が妊娠してから
料理以外の家のことを
やってくれてます』

めんどくさがりな
凌杏が料理以外の家事を
僕の妊娠がわかった時から
ずっと、やってくれている。

「そう、それならいいの。

最初、奥さんになる人が
“男性”だと言われてた時は
吃驚してしまったけど、
心綺人君はいい子みたいでよかったわ」

これは、
認められたってことでいいんだよね?

「食は細いし、
めんどくさがりだし
何かと手のかかる子だけど
支えてあげてね。

それと、何でも
相談してほしいわ(๐•ω•๐)」

凌杏の母親に認めてもらえて嬉しい♬*゜

夕飯はご馳走に
なって行くことになった。

父親は帰りが遅いらしい。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

『ご馳走さまでした』

時刻は午後七時。

「こちらこそ、お粗末さまでした」

誰かの手料理なんて
久しぶりに食べた。

『古門さん、
すぐ来てくださるそうですよ』

いつの間に電話してたんだ?

『じゃ、そろそろ外に出てようか』

美釉さんにもう一度、
ご馳走さまでしたと告げて
凌杏と一緒に外に出ると
丁度、古門さんが来た。

『ナイスタイミングです(笑)』

「それはよかったです(笑)」

軽~く、でも不愉快にならない
絶妙な流しができるのは流石プロだ。

来た時と同じように
三十分で家についた。

『ありがとうございました』

「いえいえ、またのご利用を」

そう言って古門さんは
会社に帰って行った。

『凌杏』

家の中に入ると
何故だかホッとして
凌杏に抱き付きたくなった。

『おや、どうしました?』

『なんとなく、
抱き付きたくなっただけだよ』

心配そうな表情(かお)で
訊いて来た凌杏に笑顔で応えた。

『なら、いいのですが
不安な事や思う事が
ありましたら、隠さずに
教えてくださいね……』

流石旦那さん、僕の性格を
よく把握している。

外見だけなら僕の方が
タフに見えるだろうけど
実は凌杏の方がタフだったりする。

『うん、隠さずに話すよ』

“恋人”から“ “妻”になったんだから
隠し事はよくないよな。

『ありがとうございます』

お礼を言うのは僕の方だよ。

『僕の方こそありがとう』

こうして、
凌杏の実家訪問は
無事に終わった。
凌杏の実家訪問から
半年経ち、春になり僕は出産した。

子供の名前は“心咲”にした。

凌杏が僕の名前の一部を
どうしても入れたいと言ったから
この字になった。

そうこうしている内に
さらに一年が経ち、
心咲も一半歳になっていた。

母親達は仲良くなり、
今では二人でランチに行ったりしている。

最近はどっちかが心咲を
預かってくれたりもしている。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

『ねぇ、凌杏
あの約束、覚えてる?』

心咲が生まれて
落ち着いたらするという
あの約束。

今日は母さんが
預かってくれていて
久しぶりに二人きりだ。

『えぇ、勿論ですよ』

よかった。

『ですが、本当にいいんですか?』

慎重だなぁ(苦笑)

『頼んでいるのは僕の方だよ。

ねぇ、早く頂戴♡♡』

一年半も待ったんだから
これ以上は一秒だって待てない‼

『わかりましたよ(๑^ ^๑)

ほら、これ、飲んでください』

凌杏が僕にオレンジジュースが
入ったコップを渡してきた。

それを、一気に飲んだ。

『即効性ですから
もう、身体が暑いでしょう?(クスッ)』

確かに身体が暑い……

脱ぎたい。

そう思った時には
身体が勝手に動いていて
脱ぎ始めていた。

僕は凌杏の服も脱がし
既に兆しているソレを口に銜えた。

『あなた、そんな事
何処で覚えてきたんですか?』

“こういう事”を僕に
教えたのは他でもない凌杏だ。

『君からだよ』

それ以前の恋人達とは
実は、一人を除いて
身体を重ねた事がない。

『媚薬の効果もあるんでしょうけど
あなたが
銜えてくださるとは想定外です』

普段は恥ずかしいから
こういう時だけしかできない。

『ところで心綺人、
私に挿(い)れられたくて
此処をもうこんなに
濡らしているのですか?(ニヤリ)』

あっ。

気付かれてしまった//////

既に濡れているソコに
指二本を挿(い)れられ、
卑猥な音が自分の耳に入って来た。

『そうだよ……』

銜えていた口を離して答えた。

『クスッ、あなたの口の中は
気持ちよかったですが
やはり、こちらに挿(い)れたいです』

喋りながらも器用に
中に挿(い)れた指を動かしている。

『はぁ~ん♡♡

指じゃ嫌だ……

僕のエッチなマンコに早く
凌杏の挿(い)れて‼』

媚薬のせいなんだろうけど
自然とおねだりの
言葉が口から出てきた。

『ひゃっ、ぁっ‼』

指を抜き、
いきなり挿入(はい)って来て
容赦なく突いてくるけど
それが、堪らなく気持ちいい♡♡

しかも、見せつけるように
僕の愛液の付いた指を舐めた。

『僕の中、気持ちいい?』

凌杏も気持ちよくなっているかな?

『えぇ、
気持ち良すぎなくらいですよ』

なら、よかった。

『全部、中に頂戴?』

初めて“こっち”でシた時と
同じ台詞を言ってみた。

『いいですけど、この一回で
終わらす気はないですからね』

わかってる。

凌杏が作った媚薬を
飲みたいって言ったのも、
淫らな僕を見て、止められないと
言った凌杏に
了承したのも全部、僕の意思。

『もっと……もっと……

僕を壊すくらい突いて♡♡

全部、僕の中に出して♡♡』

一滴残らず、僕の中に欲しい。

一度イったはずなのに
凌杏は直ぐに復活して
激しく突いてくる……

『はぅ……イヤ……

ぁぁ‼ ソコ駄目‼

イく……イっちゃうの~‼』

僕のイイところばかり
狙って擦られて
気持ち良いすぎて可笑しくなりそうだ。

僕が泣き叫ぶように“イヤ”とか“駄目”とか
思ってないけど口から発する
言葉を全て流して
前でも後ろでも
散々、イかされた//////

久しぶりだったのと媚薬の効果で、
僕の声が嗄れる寸前まで啼かされた。

あの宣言通り、凌杏は凄かった。

『凌杏、愛してる♡♡』

掠れかけた声で
意識を手放す寸前に呟いた。

『私も愛していますよ』

凌杏のその言葉を聴いて
僕は幸せな気持ちのまま眠った。
久しぶりに抱いてもらった日から
二週間経ち、
僕達はデパートに来ていた。

心咲の服も欲しかったし
凌杏も本屋に用があるということで
三人で買い物に来たのだった。

凌杏を心咲と二人で
待っていたら、遠くから
名前を呼ばれた。

何であの二人が一緒にいるんだ?

『佳慈と陽音!?』

まさか、
元恋人二人に会うとはね(苦笑)

「久しぶりね心綺人」

陽音は高校時代の恋人で後輩で
過去の恋人の中で
唯一身体を重ねた相手だ。

佳慈は大学時代の恋人で同い年。

『何、二人は付き合ってるの?』

多分、職場が一緒なんだろうし、
雰囲気からして恋人同士なんだろう。

「あぁ」

これは、不思議な巡り合わせだ。

『心綺人・心咲
お待たせしました』

話していると
凌杏が戻ってきた。

『お帰り、そんなに待ってないよ』

二人は凌杏の
綺麗な容姿に驚いている。

『心綺人、そちらのお二人は?』

そりゃ気になるよな。

『二人とも、学生時代の恋人だけど

今は二人が付き合ってるらしいよ』

凌杏が座ると心咲は抱っこをねだった。

荷物を僕が持ち、
凌杏が抱っこすると
嬉しそうにギュッと抱きついた。

『心咲は“パパ”が大好きだな』

僕の台詞に二人は
またしても驚いている(笑)

『そんな事ありませんよ(๑^ ^๑)

どっちかというと“ママ”のあなたから
離れようとしない方が
多いじゃないですか。

子供は母親の匂いに安心するのですよ』

僕達の会話に二人は
ついてこれていない。

「どういうこと⁉」

陽音が何度も瞬きをしながら
訳がわからないという
声音で訊いて来た。

『紹介がまだだったね。

僕の“旦那さん”と“娘”だよ』

二人は開いた口が塞がらない状態だ。

『初めまして、
心綺人の“夫”でこの子の“父親”の
向瀬凌杏と申します』

多分、容姿だけでいえば
“凌杏が”僕の妻だと
思われがちだけど実際は逆で
“僕が”凌杏の妻だ。

まぁ、そもそも
同性夫婦というのは
珍しいわけだけどね。

「心綺人、子供生める身体だったの!?」

元彼がそんな身体だったと
知ったら吃驚するのは当然だ。

『まぁね(苦笑)

雲川先生は当時から
僕の身体のことを知ってたけどね』

陽音はとうとう
言葉を失ったみたいだ。

佳慈も何か言いたそうに
口を開くが言葉が出てこないみたいだ。

『まぁ、そういうことさ』

僕はバイで両性具有。

そして、凌杏の妻で心咲の母親だ。

『僕達はそろそろ帰るよ』

凌杏の本屋が最後だったから
後は帰るだけだったけど
二人と話してたからね。

『今は色々と混乱
しているだろうから
落ち着いたら、連絡して』

鞄からメモ帳を出して
携帯の番号とアドレスを
書いて陽音に渡した。

凌杏は心咲を抱っこしたまま
二人にお辞儀をした。

放心したままの二人を
置いて僕達は帰途についた。
もうすぐ、期末テストに
入ろうとしていた六月下旬に
美卯ちゃんは突然、やってきた。

僕はまだ仕事に復帰してなくて
家にいることが多い。

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

チャイムがなり、玄関に行くと
そこにはボロボロな美卯ちゃんが
泣きながら立ったいた。

何があったのだろうか?

いや、美卯ちゃんの
この姿を見ればわかる。

中学校でイジメにあっているのだろう……

小学生の頃より悪化してないか?

また、あの{薬}が
必要になるだろうなぁ……

『いらっしゃい』

リビングに通し、ソファーに座らせ
僕はキッチンでハーブティーを淹れた。

『心綺人君』

この様子だと、また
柊和には言えてないのだろう。

『ゆっくりでいいから
何があったのか話してごらん』

さっき淹れたハーブティーを
美卯ちゃんの前に置いた。

『とりあえず、これ飲みな』

凌杏はまだ仕事中だし
話を聞いてあげられるのは僕だけだ。

「中学校って、
違う学区の子も入ってくるでしょう?

それで、入学式の時にパパが
お仕事で来られなくて
ママだけ来てくれたんだけど、
ママが“男性”だから……」

言いたいことはわかった。

僕達みたいな家族は
他にもいるのにどうして
美卯ちゃんばかり
辛い目に遭わなきゃいけないんだ。

善哉家は後三人子供がいる……

下の三人はどうしてくか
僕は見守っいきたいと思った。

『夢卯君と
月卯ちゃんは大丈夫そう?』

美卯ちゃんが
卒業してしまった今、
小学校には双子の二人しかいない。

「二人は大丈夫だと思う。

ママが“男性”ってことが
普通じゃないことを理解してないから……

私も家では不安感を極力
出さないようにしてたけど
“これ”は
誤魔化せないから此処に来たんだ」

確かに、此処までボロボロの姿で
家に帰ったら柊和は訊きたがるだろう。

「心綺人君に二つお願いがあるの」

なんだろう?

「一つはギュッてしてほしいのと
もう一つは此処に泊めて欲しい……」

なんだ、そんな事(苦笑)

『勿論、両方いいけど
お泊まりの方は柊和に
何て説明するの?』

抱き締めるのは今此処でできる。

だけど、お泊まりは
夏休みに入ってからなら
柊和も何も言わないだろうけど
まだ、学校がある今は
帰ってこいと言うだろう。

『わかった。

僕が上手い理由を考えてあげる』

状況は違うけど
イジメにあっていた経験はある。

久崎と遊ぶのを断ったら
翌日からあいつのグループから
嫌がらせされるようになり
一週間後にはイジメに変わった。

「本当に?」

不安そうな美卯ちゃんに頷いた。

『うん』

泊めるのはいいんだけど
一つ問題がある。

『お着替え、どうしようか?』

生憎、うちには下着も服も
当然、男物しかない。

幸い、制服は破れてなさそうだけど
買いに行くにしても
この格好では外に出られない。

『ねぇ美卯ちゃん、
下着とお洋服のサイズと
好きな色とかデザイン
教えてくれる?

お留守番しててくれたら
僕が今から買ってくるよ』

“普通”の家庭なら
男親にあたる僕に女の子が
下着のサイズなんて
教えたくないだろうなぁ(笑)

「いいの?」

僕に買いにいかせるっていうのと
お金のことを心配してるのかな(苦笑)

『勿論。

何も心配しなくていいんだよ』

一つ目のお願いを叶えて
ギュッと抱き締めた。

美卯ちゃんはまだ中学生だし
ちょっと頑張り過ぎな
ところがあるから
たまには、頼ってほしい。

「お願いしてもいい……?」

頼られて嬉しい。

『わかった(ニコッ)

行ってくるから
好きに寛いでてね。

それと、心咲は当分
起きないと思うけど
起きちゃったら
面倒見ててくれるかな?』

「任せといて、
心咲ちゃんが起きたら
ちゃんと面倒は見ておくから」

色々な物の場所を説明し、
あの格好のままじゃ
疲れるだろうと思い、
凌杏のシャツを一枚借りて
美卯ちゃんに着せた。

やはり、中学生の美卯ちゃんには
身長が低い凌杏のシャツでも
ワンピース状態になり引き摺っているから
裾をヘアゴムで縛ってあげた。

「ありがとう」

お留守番を美卯ちゃんに
頼んで家を出た。

一応、凌杏にメールをしておこう。

『《美卯ちゃんが来てるよ。

買い物中だから、僕より
先に家に着いたら話してあげてね》』

これでよし。

序でに、夕飯の買い物もして帰ろう。
僕が家に着いても
凌杏はまだ帰って来ていなかった。

『美卯ちゃん、ただいま』

今から洗濯して乾燥すれば
夜には着られるだろう。

「お帰り。

心咲ちゃんは起きなかったよ」

二時間くらい出てたのに
起きなかったのか。

『お留守番、ありがとね』

さて、柊和に電話しなくちゃな。

『美卯ちゃん、
ママに電話してくるね』

今頃、学校から
帰って来ない美卯ちゃんを
心配してるだろうから。

『《もしもし、僕だけど》』

柊和は意外と
直ぐに電話に出た。

「《心綺人?》」

不思議そうな声音で呼ばれた。

それもそうだろう、
本当なら僕から電話が来る
予定なんてなかったんだから。

『《美卯ちゃんが
帰って来ない上に
連絡が取れないから
心配してるじゃないかと思ってね》』

あの姿と精神状態では
当然、柊和に連絡する
余裕はなかったはず。

「《何で、心綺人が
それを知ってるんだ?》」

本当のことは言わない約束だからね。

『《学校帰りに心咲に会いに
寄ってくれたんだけど
慣れない学校生活で疲れたのか
僕と話してる途中で寝ちゃったから
起こすのは可哀想だし、
泊めようと思って電話したんだよ》』

嘘も方便。

美卯ちゃんのためにも
少しの嘘は許してもらおう。

「《そうなのか……》」

『《本当は長居するつもりは
なかったみたいで帰り際に
連絡するって言ってたんだけど
寝ちゃったから、僕が代わりに
連絡をいれさしてもらったよ》』

本当は起きてるし、
イジメのことを言えないからだけど
寝ちゃったってことにすれば
柊和も納得するだろう。

「《わかった……

悪いけど、泊めてやって》」

ほら、納得した上に
お泊まりの許可もでた。

『《わかった、
美卯ちゃんをお預かりします》』

最後だけわざと
かしこまって言ってみた(笑)

「《よろしくお願いいたします》」

柊和もかしこまって言った。

幸いなことに明日は土曜日。

外傷はなかったから
制服を汚されただけだろけど
精神的にはかなり参ってるに違いない。

『《じゃぁ、美卯ちゃんが
帰る時にまた連絡するよ》』

それだけ言って
電話を切った。

『お泊まりの許可が出たから
ゆっくり休んでてね。

僕は夕飯の支度をしちゃうから』

これで、とりあえず大丈夫だ。

『ただいま帰りました』

それから、二時間後に
凌杏は帰って来た。

『お帰り、凌杏』

「凌杏君、お帰り」

リビングに来た凌杏に
二人でお帰りと言った。

『おや?

心綺人、女の子に
なんて格好をさせてるのですか』

確かに、スカートが短いのと
シャツ一枚をワンピース代わりに
しているのじゃ
同じ短さでも少し違って見える。

『ちょっとあってね(苦笑)

美卯ちゃんは今日、
お泊まりするから
洋服とか色々、
買って来たんだけど
まだ、乾燥機の中だから
凌杏のシャツを一枚着せたのさ』

さてと、乾燥機は
後、どれくらいで終わるかな。

『私のシャツを着せるの構いませが……』

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

夕飯後、美卯ちゃんは
僕に話してくれたのと
同じ事を話した。

『それは……』

珍しく凌杏がキレている。

僕の嫌がらせの時以来だな(苦笑)

「り、凌杏君……?」

美卯ちゃんは初めて見たんだろう。

凌杏は普段、優しくて
物静かとはいかないけど(苦笑)
めったにキレない。

生徒達とも友達のような関係を築き
古参の教師達から“なってない”
なんて言われているけど
それだけ、凌杏が生徒達に
好かれている証拠だ。

例外は
“大切な人が傷つけられた時”。

元担任の娘だし
それこそ、
彩月ちゃんと同じように
生まれた時から
知っているんだろうから
イジメにあってるなんて
知ったらキレるだろうね。

『先生達には
知られたくないんですよね?』

美卯ちゃんが頷いた。

そりゃそうだ……

僕の場合、“男”だし
“高校生”だったのもあって
最初は言えなかった。

だけど、母さんは
初めて生理になった時と同じように
優しく抱き締めてくれた。

『いいですか美卯さん、
そういう連中には
口で何を言っても無駄ですから
期末テストで
学年で一番を取るのです。

勉強が出来る相手には
何も言えないのが
小・中学生のルールです』

それは一理あるかも。

「英語教えてくれる?」

おや、僕の出番だね♬*゜

『勿論(๑•᎑•๑)

僕は英語教師だもの
美卯ちゃんが
わかるまで教えてあげるよ。

テスト範囲表と教科書と
ノートを出してごらん』

こうして、
期末テストの勉強をすることになった。

英語だけじゃなく
文系の教科全般を僕が
一つ一つ教えてあげた。

理数系はやっぱり
得意みたいで、だけど
わからない所は
凌杏に聞いていた。