「おひ、かひさひ。手ほははへ」


「うん? 何言ってんだ?」


「手を離せつってんだよ」


俺は神崎の両手の甲を思い切りつまみあげて言った。


思いきり力を込めてつねってやったため「悪かった、悪かったよ!」と、本気で泣き出しそうな表情になっている。


そんなやり取りに、優奈の無邪気な笑い声が響く。


こんなに純粋な優奈に、あの部屋で見たものを話す気にはなれなかった。


もちろん、それは神崎にもキツク言ってある。


絶対に口に出すなと。


しかし、そんな思いとは裏腹に優奈が話さないことを許さなかった。


「ねぇ、それで部屋には何があったのよ?」


ひたすら笑ったあと、気を取り直して聞いてくる。


俺と神崎は軽く目を見交わせる。


「優奈、何か食べないか? もう九時過ぎだから小腹が減るだろ」


言いながら、メニューを差し出す。


優奈はソレを受け取ってから「何があったの?」と、しつこく聞いてくる。


その好奇心は当然だと思う。聞いてこない方がおかしい。


けれど、言えない。絶対に。


「お兄ちゃんの目の下のクマ。寝れないほどのものを見たんでしょ?」


さすが、名探偵優奈。