「ダミー?」


「そう。ダイニングルームの横には廊下とほぼ同じ大きさの鏡が置いてある」


「あぁ、覚えてる」


俺は、自分の姿がその鏡に映って照れた事を思い出す。


あんな場所に姿見があるなんて不思議だと感じてたことも思い出した。


「あの鏡は壁掛けだと見せかけてあるけど、本当は違う」


「どういう事?」


「鏡の向こうにはまだ廊下が続いてるんだよ。その向こうに監視カメラの部屋がある」


「お前、なんでそんな事に気付いたんだ?」


「ここに引っ越して来た日に、あまりにデカイ屋敷だから探査してたんだ。最初は俺も、ただの壁掛けの鏡だと思った。けど、バランスを崩して鏡に手を付いたとき、動いたんだよ。壁があるはずの、向こう側へな」


話を聞きながら、俺は自分の手に汗をかいていく。


本当に、とんでもないことに巻き込まれてしまった気がしてならない。


そこまでして隠さなければいけない部屋に、これから俺たちは入ろうとしているのだ。


ただの好奇心から、大人の世界へ殴り込みに行くようなものだ。


無謀すぎる。


一歩一歩前へ進むたびに、絨毯の上の足音が小さく聞こえる。ごくたまに床のきしむ音が聞こえてきては、いちいち体を止めて、闇の中空気の動きを感じ取ろうと耳を澄ます。