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だいたいの家庭のブレーカーは、脱衣所なんかについている。


アパートの場合は玄関を入ってすぐの場所が主流。


神崎邸はといえば……。


「なんでこんな所なんだよ」


小さめの懐中電灯で二段にわかれたクローゼットの中を照らしながら、後ろで俺の様子を見ているだけの神崎へ文句を言う。


「悪いな、俺の体がもっと小さかったら入れたんだけど」


嫌味にしか聞こえないその言葉に、軽く舌打をする。


クローゼットといっても、上段に入っているものは、ほとんどがむき出しになった状態の高価な陶器ばかり。


その値段は見た目じゃ決してわからないため、できれば中に入ることを拒みたかった。


しかし、ブレーカーはこのクローゼットの奥。


右側の壁の上についていると言う。


視界が悪い中、近くの陶器を恐々と移動させながら、上半身だけを入りこませる。


腕を一杯に伸ばして見えない壁を探る。


「大丈夫か?」


「ダメだ、手が届かない」


思ったより、クローゼットは奥行きがある。


「ハジメ、懐中電灯持っててやる」


「やっぱり中に入らなきゃダメか?」


「手が届かないなら、お前が入るしかないだろ」


当然だろ? そんなニュアンスを感じ取れて、俺は神崎を睨む。