「泣くなってば」


焦りで俺の方が泣きそうだ。


「ハジメ」


「へ?」


「俺は、ずっとお前を見てたんだ。クラスが同じになってからずっと」


「見てた?」


神崎が、ナプキンで勢いよく鼻水をかむ。


目が赤くなっていて、可愛くないでかいウサギが座っているように見える。


俺もさっき散々泣いたから、きっと同じ顔をしているんだろうけど。


「ハジメの笑顔を、見てた」


言わんとすることが掴めなくて、俺は首を傾げた。


まるで愛の告白の前触れみたいなフレーズだ。


「誰が相手でも、ハジメはずっと笑顔だった。俺は自分が嫌だと思う相手には笑えない。だから、相手と毎回衝突してたんだ」


「あぁ、そういえば……」


神崎とクラス内で言い合いになっていた相手が、翌日包帯を巻いて登校してきたことを覚えている。


その時は何も感じなかったけど、あれは神崎の仕業だったのか。


「ハジメは大人なんだと思った。ずっと、こうして話してみたかった……」


だけど、俺は神崎の表向きしか見ずに、変な奴だと決め付けて距離を置いていた。


それに、俺が誰にでも笑っているのは大人だからじゃない。


ただ、笑ってないと自分が不安だったんだ。