「お前はそのままがいいよ。そのままじゃないとお前じゃない」


「ハジメ……」


「何だよさっきから人の名前連呼してさ」


少し距離があるので気付かなかったが、さっきから神崎の様子がおかしい。


両手を胸の辺りで握り締めてジッとこちらを見つめている。


なんだか、すごく嫌な予感がしてきた。


キラキラとして痛いくらいの視線が遠くからでも突き刺さる。


「ハジメがそこまで俺のこと思ってくれてたなんて……俺、嬉しくて」


その言葉に唖然とし、口まで持って行ったシチューがこぼれて、俺のTシャツを汚した。


それと同時に、神崎の頬にも何かが伝ってこぼれた。


おい、うそだろ?


「な、泣いてるのか?」


おそるおそる聞いてみる。


神崎は無言のまま、何度も頷いた。


感涙、というやつか? いや、まさかこんなことで?


「おい、冗談よせよ。なんでこのくらいで泣くんだよ」


人に泣かれる、ということになれていない俺はおおいに焦る。


俺は散々泣いてきた側の人間だ。


しかも、こんな時に家政婦さんに入ってこられたら問題だ。


俺が泣かしただなんて思われたら神崎の両親に何を言われるかわからない。


それじゃなくても、今日ここへ泊めてもらうことを無理矢理承諾してもらったのに、追い返されてしまうかもしれない。