神崎はあくまでデカイ男だ。


その男の口から、こんなに優しい言葉が聞けるなんて思っていなかった。


神崎はたしかに傷ついて来た。


だからこそ、言える言葉だった。


「絶対に、お前は悪くない」


神崎が、俺に向けて強く言った。


胸の奥で氷ついていた心が、春の太陽を浴びて溶け始める。


チョロチョロと小さな水音が聞こえてきて、そこに黄色いタンポポなんかが姿を見せる。


「悪くない……」


「あぁ、絶対にだ。どんな小さなことでも『やられる側が悪い』なんてことはあり得ない。『やられる側の気持ちが最優先』なんだ。そんなこともわからないような奴、見た目は大人でもクソガキだ」


不覚にも、また涙が流れた。


ありがとう神崎。俺はようやくその言葉に出会えたよ。


だけど、だけどな神崎?


「人の親をクソガキ?」


俺は涙をぬぐって神崎を見上げた。


「あ、悪い。つい」


不穏な空気を感じ取り、俺からパッと身を離す。


「つい、で人の親をクソガキ? お前言ったよな、『やられる側の気持ちが最優先』だって」


俺はそう言いながらジリジリと神崎と距離を縮める。


「言った。言ったけど今のは不可抗力で……」


なんとか弁解しようと、体の前で両手を振って見せる。