「ハジメ、この世で一番最低な言葉は、それだと思わないか?」


「え?」


「つまり、『被害者も悪い』ってこと。被害者が被害者として悲しむことさえ、できなくなる言葉だ。そしてそれを安易に使う人間は、被害にあった経験がない」


確かにそうかもしれない。


自分が被害者になったとき、『自分も悪かった』と言える人間は少ないと思う。


ちゃんと鍵をかけて駐輪所に置いていた自転車、それを盗まれて『お前も悪かった』なんて言われて納得するだろうか? 誰だって盗んだ人間が100%悪いと思うだろう。


「被害にあったことのない人間は、その場のことを想像することでしか理解できない。たかが想像ですべてわかったつもりになって、ヒドイ言葉を被害者へ浴びせるんだ。その場の重たい空気や、逃げ道があるのに逃げれない威圧感。そんなもの、カケラも考えてない」


吐き捨てるような言い方に、俺は頷く。


自分が痛いほどに経験してきたこと、誰も理解してくれなかったことだ。


「どんな犯罪でも、一番タチが悪いのは人間じゃない。犯人の嫌悪や憎悪、快楽なんかで作られた魔物だよ。そいつが、身動きをとれなくする」


「神崎……」


「大丈夫だ、魔物は俺が退治してやる」


いつもの調子に戻った神崎が、ニッと白い歯を除かせて笑う。


その笑顔を見た瞬間、俺の胸が割ける音がした。