キョトンとした表情の神崎にイラだち、「どうしてって、本当のオヤジさん亡くなったんだろ? 傷つくだろう普通」と、思わず声が荒くなる。


俺はイジメられた記憶で今でも苦しんでいる。


嫌な思い出は、いつまでも思い出にはなってくれない。


忘れようとすればするほど、消えてはくれない。


何年も昔の話なのに、どうして今の俺がこんなに苦しまなきゃいけないんだ。


なんで、神崎はこんなに平然としていられる?


「傷つくのは当然だ。だけど、それとトラウマは別問題だろ?」


「つまり……お前はその時のことを忘れたってことなのか?」


俺の言葉に、神崎が目を見開く。


驚いているような表情の後に、軽く笑う。


「ハジメ、お前は嫌な記憶を忘れる派なのか?」


「は?」


「忘れよう忘れようとするから、トラウマになるんだぞ。嫌な思い出を忘れる。そんなこと人間も動物もできっこないんだ」


できっこない。


その言葉に、俺の心臓が熱く、大きく鳴った。


「嫌な思い出は自分に必要なんだ、忘れるなんてもってのほか。絶対に忘れちゃいけない記憶。だからリアルにいつまでの残る」