「ダメ。俺とお前、同じ学校の同じクラス、それだけの関係だ」


「それだけの関係って……ヒドイ」


「何だよ、何ハンカチなんか噛んでんだよ」


この時点でオチがわかったのか、優奈がクスクスと小さく笑いはじめた。


「あなた、あの時のこと忘れたのね!?」


「なんだよあの時って? うわっマジで鼻水垂らしてんじゃねぇよ、キタネーな!」


右の鼻からダラリと垂れて来た鼻水に、俺は本気で叫んだ。


「あたしあの夜にあなたの子を妊娠したのよ!!」


「……なんだって?」


「妊娠したの、ここに、あなたの子供がいるのよ……」


俺の手を握り締め、自分のお腹に当てる神崎。


よく鍛えられている腹筋が、服の上からでも伝わってくる。


ガチガチに固い。


「本当に、そうなのか?」


「そうよ、間違いなくあなたの子……」


トロンとした瞳になる神崎に、優奈が堪えきれなくなってふきだした。


「バッカみたい」


と、笑いながら言う。


「じゃあ、どうしてこの腹は六つに割れてるんだ?」


「六つ子だからよ」


「じゃあ、どうしてこの腹はこんなに固いんだ?」


「赤ちゃんが鉄板のように石頭なの」


後は、そんなやり取りを繰り返し。


笑っている優奈と、女言葉の気持ち悪い神崎と、暑さを忘れる俺は、あっという間にお目当てのファミリーレストランに到着した。