最後だけ声に出して言ってみて、少し照れる。


声が響いて、まるで自分のものじゃないような感覚。


俺は無意味に手でお湯をかき混ぜてみた。


クルクル回るこのお湯は風呂の栓で止められている。


お前らは絶対にここにいろよ、と誰に言われたわけでもないのに、そこにいることを拒めない。


だけど、それは形のない水だからだ。


手にすくえば手の形になるし、コップにいれればコップの形になる。


例えば、人間だとそこまで柔軟な者はまずいないだろう。


色々な気持ちを押し殺しながら、自分という人間を最大限に押し出すことなく、無理矢理形にはまって生きている。


その形が人と違うと不安になるから、みんな必死なのだ。


でも、あいつは違った。


たった16歳の少年が、その形を突き破ろうとしている。


形にはまらないあいつと一緒にいるだけで口が軽くなり、思わず笑い出してしまう。


だからだ、俺が不覚にも「気持ちよかった」なんて思ってしまったのは。


俺は大きく伸びをして、口元に笑みをつくる。


なにはともあれ、俺の役目は終ったのだ。


その安心感から、急に強い眠気に襲われた……。